STORY 09

伝え方の本質は、
自分が何者であるか

つながりを信頼に変える

コミュニケーションとは

株式会社カエカ

代表取締役

千葉 佳織

千葉 佳織
  • 15歳から弁論を始め、全国弁論大会4度優勝。そのうち、内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞を受賞。慶應義塾大学卒業後DeNAに入社。人事部所属時に同社初のスピーチライター業務を立ち上げ、登壇社員の育成、社長のスピーチ執筆など部署横断的に課題解決に取り組む。2019年、株式会社カエカを設立。

「話し方」を変えれば、人生の景色は変わる。
そう信じるのは、AI診断とトレーナーの指導を掛け合わせた話し方トレーニングを提供する株式会社カエカ代表取締役の千葉佳織氏だ。

新卒時代の挫折後、自己内省を経て、「自分がいなくなった後も、コミュニケーション学習が文化として残る仕組みをつくりたい」と起業を決意。

20人への突撃アポ、受講生との出会いから始まった資金調達など、彼女の歩みは、人とのつながりをチャンスへ変えてきた連続でもある。

出会いをどう育み、信頼へと変えてきたのか。その思考に迫った。

渋谷の喫茶店で見つけた「本当にやりたいこと」

千葉氏のキャリアの出発点は、順風満帆なものではなかった。

学生時代、アナウンサーを目指したものの30社近くに落選。新卒で入社した会社でも理想とのギャップに苦しみ、「自分は何もできない」と感じていた。

そんな彼女が転機を迎えたのは、新卒1年目の後半。渋谷・道玄坂の喫茶店で、自分のこれからを徹底的に考えた時間だった。
「それまでは『こう生きたい』と思っても、自分で制約をつくって諦めていました。でも、その時は一度全部の制約を取っ払って考えてみたんです。そこで初めて、起業という選択肢が出てきました」

そのとき浮かび上がってきたのは、高校時代に弁論部で得た原体験だった。話し方によって、人は変われる。自分自身もまた、その力に救われた一人だった。

「私たちは1日に6.1時間話していると言われています。人生の大半をコミュニケーションに使っているなら、その質を上げることは人生そのものを変えることにつながると思ったんです」

だからこそ千葉氏は、単に話し方を上達させるのではなく、コミュニケーションを学ぶことが当たり前の文化をつくりたいと考えるようになった。

「自分がいなくなった後も、コミュニケーション学習が文化として残る。教科書に載るような仕組みをつくれたら、それが本望だと思えたんです」

20人へのアポイントから始まった最初の一歩

起業したいという意思は固まったものの、当時は起業の仕方もわからず、人脈もなかった。そこで選んだのは、とにかく人に会いに行くことだった。

「本の著者を調べてDMを送ったり、知人に紹介してもらったりして、コミュニケーションに関わる仕事をしている方20人ほどに直接アポイントを取りました」

もちろん、うまくいかないことも多かった。断られることもあったという。それでも行動を続けるなかで、彼女の熱意に応えてくれた人もいた。

「そんなに思いがあるなら、自分が高校生向けに話す機会があるから、10分あげる。そこで自由に話してみたらいい、と言っていただいたんです」

当時まだ会社員だった千葉氏は、有給休暇を取ってその場へ向かった。そこでのプレゼンをきっかけに、「講師をやってみないか」と声をかけられる。

「それが、本当の意味でこの仕事を始める最初の一歩でした。どう踏み出せばいいか分からなかった時に助けてくれた出会いだったと思います」

その相手とは、今も関係が続いている。現在も仕事でもご一緒するなど、一度の出会いを信頼へと育ててきた。

受講生との出会いが、事業の未来を切り拓いた

もう一つ、千葉氏のキャリアを大きく動かした出会いがある。
起業後にサービスを受講していた一人の経営者とのつながりだ。

その経営者は、6ヶ月間のトレーニングを終えた最終日に、千葉氏へこう尋ねたという。
「このサービスはすごくいい。で、千葉さんはこの会社をどうしたいの?」
千葉氏は迷わず答えた。

「私はこの会社を一人でやるつもりはありません。コミュニケーション学習を文化にして、世の中に残る会社にしたいんです」

すると、その経営者は「だったら、自分が事業計画や伸ばし方を一緒に考えるから頑張ろう」と声をかけた。
それまで自分が“教える側”だった相手から、今度は経営や資金調達を学ぶ立場になったのだ。

「何度もその方のオフィスに行ってプレゼンを見てもらいました。正月にミーティングをしてもらいながら、厳しくフィードバックをもらいましたね。」

結果として、千葉氏は約30社にプレゼンを重ね、1.2億円の資金調達を実現した。
当時、正社員・役員は自分一人。
そんな小さな組織が未来への資金を得られた背景には、受講生との深い信頼関係があった。

「その方は今では株主でもあり、月に一度は必ず事業報告をしています。私の人生を変えてくれた方ですね」

関係構築の原点は、自分自身の苦手意識

今でこそ“コミュニケーションのプロ”として見られる千葉氏だが、もともとは話すことに苦手意識を持っていた。

「私は緊張してしまうタイプなんです。だからこそ、せっかくいただいた出会いやチャンスを逃したくないと思ってきました」

その思いもあり、自分自身の雑談の様子を動画で撮影し、社内の別のトレーナーからフィードバックを受けることも繰り返してきた。

どう話せば相手にとっても自分にとっても心地よい時間になるのか。
その試行錯誤が、現在リリースしている「雑談・関係構築コース」にもつながっている。

「雑談や関係構築のような双方向のコミュニケーションができると、『今度一緒に仕事しようよ』というチャンスに本当につながるんです」

千葉氏が重視しているのは、単なるテクニックではない。その人が何を大切にし、どんな価値観で生きているのか。言葉の背景にある“あり方”を整えることこそが、伝わるコミュニケーションの土台になると考えている。

「言葉にしてうまく伝えたいなら、自分が何者なのか分からないと伝えられない。だから、幼少期から原体験を掘り下げて価値観を整理するんです。そうすると、自分がどんなスタンスで人と向き合うのかという幹ができるんです」

人と人が前向きにつながる「場」をつくりたい

現在、カエカでは受講生同士が交流できるコミュニティも大切に育てている。
これまで開催してきたコミュニティイベントは150回以上。そこでは、年齢も職業も異なる人たちが出会い、学び合い、関係を深めている。

「大人になると、どうしても利害関係の中で生きることが増えます。でも、だからこそ利害を超えたサードプレイスが必要だと思うんです」

実際に参加者からは、「40代になって、こんなに信頼できる友人ができるとは思わなかった」「ここに来ると新しい挑戦をしたくなる」といった声も寄せられているという。

千葉氏がつくりたいのは、単なる学びの場ではない。言葉を通じて人が前向きになり、誰かとつながることで未来の可能性が広がっていく、そんな場だ。

「人が人を幸せにできるかどうかで、人生は大きく変わると思っています。だからこそ、自分も学び続けながら、誰かを応援し続けたい。その積み重ねが、もっと大きな場所づくりにつながると信じています」

話し方を磨くことは、単に上手に話せるようになることではない。
自分を知り、相手を知り、関係を育てること。その先に、仕事の機会も、人生の選択肢も広がっていく。
千葉氏の歩みは、そのことを静かに証明している。

「人は人を幸せにできるかどうかで生きている」という言葉が印象的だった。
彼女の周りで次々とチャンスが生まれるのは、彼女自身が誰よりも「自分のあり方」を言葉にし、
目の前の相手と誠実に向き合い続けているからだろう。

千葉 佳織
株式会社カエカ
千葉 佳織 に聞く

つながり一問一答

Q ビジネスで出会いを増やすために意識していることは?
自分の足で、さまざまなバックグラウンドや年齢の方と会うことです。10代・20代のコミュニティや勉強会にも積極的に参加しています。
Q どんな人と一緒に仕事をしたいですか?
誰かのためにありたいと強く思い、諦めずにコミュニケーションを取り続けられる方です。
Q 新しいコミュニティで信頼を得るために心がけていることは?
その場にいる全員が楽しめるように働きかけることです。話しやすさのバランスを意識しています。
Q この春、会ってみたい人は?
作家の原田マハさん。『本日は、お日柄もよく』を読んで起業を決意しました。いつか直接感謝を伝えたいです。

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