STORY 08

本と人との向き合い方

思想は本から、

振る舞いやチャンスは人から

文芸評論家

三宅 香帆

三宅 香帆
  • 文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。1994年高知県生まれ。京都大学人間・環境学研究科博士後期課程中退。リクルート社を経て独立。主に文芸評論、社会批評などの分野で幅広く活動。YouTubeやPodcastでも積極的に発信を続ける。著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『「好き」を言語化する技術』『考察する若者たち』等多数。

大学院で万葉集を研究し、リクルートを経て文芸評論家へ。
彼女の思考の土台を築いたのは、幼少期から変わることなく常に「本」が存在していた。

一方で、研究者の道を歩んでいた彼女を「書き手」へと変え、現在の活動へと導いたのは、人との出会いだ。
無名時代の自分を支えた出版社やマネージャーとの出会い。

彼女の活躍の軌跡を辿りながら、いかにして自分を形作る「本」と出会い、どう「人」との縁をつないできたのか。文芸評論家・三宅香帆の思想の根幹を聞いてみた。

思想の源泉は常に「本」にある

文芸評論家として活躍する三宅氏にとって、本は単なる知識の蓄積だけではなく、幼い頃から自分自身の思想や価値観を形づくってきた存在だ。

その関心が大学院での研究につながった背景には、ある作家との出会いがあった。

「中高生の頃、田辺聖子さんや氷室冴子さんといった好きな作家さんが、古典を紹介したり、古典を題材にした小説を書いてくださっていたんです。それがすごく面白くて。好きな人が勧めているものなら読んでみよう、と古典の世界に入り、国文学を勉強するために大学を選びました」

大学院まで進み、専門的に研究したのは、万葉集における「歌群(かぐん)」、つまり和歌のひとまとまりの構成だ。1300年前の和歌と向き合う日々は、現在の活動の揺るぎない土台となっている。

「万葉集はすべて漢字で書かれていて、例えば『蜂音』と書いて『ブ(ブンブン鳴るから)』と読ませるような遊び心が溢れているんです。今のキラキラネームに近い発想ですね。ようは日本語の音を表記するために漢字をパズルのように組み合わせているのですが、中国の古典から元ネタとなる漢詩が見つかったら『こう読むのでは』と新しく分かったりする。1300年も経っているのに、いまだに新しい発見があるのが面白いんです。テキストを読み解く経験は、今の仕事の基礎になっています」

彼女にとって思想の根幹を形づくるのは、常に「本」がある。そこには彼女なりのメディア論がある。

「本を通じてなら、時代が違う人や言葉が通じない国の人とも出会えます。自分と正反対の思想であっても、テキストならじっくり向き合える。私にとっては、対面よりもテキストを介して考えを知ることのほうが、すごく楽だしポジティブなんです。対面は関係性を作る技術が必要ですし、時間移動の制約もあります。本ならその全てを超えて『考え方』を知ることができる。そこがすごくいいメディアだなと思っています」

「振る舞い」は人から、「思想」は本から

三宅氏は、人から受ける影響と本から得られるものの違いを、明確に分けて捉えている。

「人から受ける影響は、本当にちょっとした振る舞いだと思っています。例えば会食の場で、どう振る舞うのが失礼でないかとか、どのタイミングで仕事の話を切り出すかとか。こうした言語化されていない『作法』は、実際に人と出会い、その振る舞いを見ることでしか学べませんでした。一方で、思想や価値観、考え方といった脳内の部分は、やはり本のほうが影響が大きい。本でしか得られないものがあると感じています」

その中で、「この人との出会いがなければ今の自分はいない」と彼女が断言するのが、当時創業したばかりだった兵庫県明石市の出版社「ライツ社」のお二人だ。

「当時、私は大学院生。Twitterも鍵アカウントで、インフルエンサーでも何でもなかった。ただ書店のアルバイト中に書いていたブログを、ライツ社のお二人が見つけて連絡をくれたんです。書評の本を出すのは、業界的にも売れる保証がない『博打』だったと思うんですけど、本当に丁寧に作ってくださいました。書店営業を共にしてくれたり、ブックフェスに参加したり。そこで書店員さんとお話したり、自分の本がどう棚に並ぶのかを肌で感じましたその経験は本当に大きかった。今でもずっと、ライツ社さんや、あの時売ってくれた書店さんに恩返しをしたいと思っています」

当時は研究者の道を志していた三宅氏だったが、この出会いが「書き手」としての喜びに目覚めさせる。
反響の大きさ、そして何より自分の本が書店に並ぶという光景は、彼女の心に「本を書きたい」という新たな想いをともした。

視野を広げた「マネージャー」との出会い

さらに、三宅氏に大きな転機をもたらしたのは、現在のマネージャーとの出会いだ。

きっかけは、ラッパー・TaiTan氏とのポッドキャストイベントだった。そこで出会ったTaiTan氏のマネージャーも、三宅氏と同じ元リクルートという経歴の持ち主だった。

「共通点もあり、最初から話が合いました。私が『マネージャーを担ってくださる方をずっと探してて』と言ったら、『やりましょうか』と言ってくださって。そこからはトントン拍子で、出会って数ヶ月のうちに契約が決まりました。作家は個人で活動するものだと思っていましたが、彼女が加わったことで仕事の景色が劇的に変わった。今の仕事はマネージャーさんがいなければどうなっていたことかと感じるものばかりで、もし出会っていなかったら全く違う景色になっていたと思います」

マネージャーという存在を得たことで、自身の活動が単なる執筆に留まらず、多角的な仕事の広がりへと繋がっていった。

人柄ではなく「やってること」に興味を持つ

多くの出会いを経て三宅氏が辿り着いた関係構築術は、「相手の人柄」ではなく「相手が作ったもの」に興味を持つことだ。

「事前情報でいくら想像しても、人柄は誤解しやすい気がしていて。だから、その人が発表したものや仕事や活動自体に興味を持つようにしています。例えばSansanの『Eight』というサービスを扱っている人ならその仕事内容に、育児をしている人ならお子さんや趣味の内容に。その人が情熱を注いでいる『やってること』に興味を持つようにしています。実際、私自身も自分の書いたものに興味を持ってもらえるのが一番嬉しいよな、と。相手が大切にしている成果物や活動に具体的な関心を寄せることを忘れないようにしたいです」

人柄という主観でブレやすいもので判断するのではなく、相手が人生の時間を割いて形にしている「こと・もの」をリスペクトする。それが三宅氏なりのコミュニケーションの作法だ。

AI時代だからこそ、「信頼される人」であるために

AIが容易に文章を生成できるようになった今、三宅氏はスキルの先にある「信頼のあり方」こそが重要になると考えている。

「コミュニケーションの上で『信頼できる人だな』と思ってもらえるかどうかが、一番大事。AI時代だからこそ、単なるスキル以上に『この人なら間違いない』と思える、連絡のしやすさや安心感のような、人間的な部分が求められると思うんです」

効率化や自動化が進む世の中だからこそ、結局は「この人と一緒に仕事をして気持ちがいいか」という、極めてプリミティブな信頼関係に立ち返っていくのではないか。

そんな自然体の自分を保つために、彼女が習慣にしているのがスマホでの「日記」だ。誰に見せるでもない場所で言葉を綴ることが、結果として他者と向き合う時の「誠実さ」の土台になっている。

「日記を書くと、人に見せない言葉によって自分と向き合わざるを得ないところがある。そうして自分と向き合うことが、日常の中で特別なことではなくなっていくのがいいのかなと思っています」

日記を通じて自分の思考や感情のノイズを整理しておく。
その「自分を整える時間」があるからこそ、他者に対しても、取り繕わないその人らしさが宿った言葉を届けることができる。

「日記は、思考を整理するための大切なツール。そうやって自分を整えながら、他者ともいい関係を築いていきたい。私自身、テキストの『その人らしさ』を大事にしたいですし、信頼してもらえる存在でありたいと思っています」

人との出会いが世界を広げる一方で、本との出会いが人生の根幹を変えることもある。
そのどちらも大切にしながら、自分の思考や感性に向き合い続ける彼女の姿は、
自分という軸を失わずに他者と関係を築き続けるための、選択肢を示してくれている。

三宅 香帆
文芸評論家
三宅 香帆 に聞く

つながり一問一答

Q ビジネスで出会いを増やすために意識していることは?
SNSです。知り合いの誰に見られてもいい、誠実な発信を心がけています。
Q どんな人と一緒に仕事をしたいですか?
「視野が広い人」。見えない仕事がいっぱいある中で、そこに気づき、自分の仕事だと思える人。
Q 新しいコミュニティで信頼を得るために心がけていることは?
その場の「暗黙のルール」を読み解くことです。場所によってルールは違うので、まずはそこを観察するようにしています。
Q この春、会ってみたい人は?
自分が「これすごいな」と感じたものを作っている「作り手」の方々。スタイリングや広告など、表舞台に出てこない方のプロの哲学を伺ってみたいです。

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