STORY 03
雑用すら作法に変える
仕事で成果を出す極意
ReHacQ
プロデューサー
STORY 03
仕事で成果を出す極意
ReHacQ
プロデューサー
テレビ東京を退職後、YouTubeチャンネル『ReHacQ』を立ち上げ、同時にABEMAのプロデューサーとしても独自のコンテンツを仕掛け続ける高橋弘樹氏。
彼の強さは、当時は価値を見出しづらかった下積み時代の雑務や、決して本意ではなかった仕事の現場で培われた。
一見遠回りに思える経験から、どのように意味を掘り起こし、プロとしての武器を磨いてきたのか。
キャリアの転機となった出会いを振り返りながら、今の社会で勝ち残るための極意を聞いた。
入社1年目、高橋氏が叩き込まれたのは演出の技術ではなく、徹底的な「作法」の叩き込みだった。
「上司のタバコの銘柄を覚えるのは当たり前。マルボロのメンソールを渡す時もピリピリとパッケージを剥いて、すぐに吸えるように1本出しておく。タクシーをどのタイミングで呼ぶか、焼肉をどう焼くか、エレベーターの立ち位置はどこか……。当初は『なんて面倒な雑用なんだ』と思っていましたよ(笑)」
しかし、この一見理不尽なAD時代の雑用こそが、のちにプロデューサーとして大成する高橋氏の土台となる。
彼は現場で、ある本質に気づいたのだ。
「ADの役割は、チームで一番優秀な人間、つまり演出家やディレクターがいかにクリエイティブに集中できる環境を作るか。彼らに一切の雑念を与えないことが、結果的に番組のクオリティを最大化させる唯一の道なんです」
この「裏方としての徹底したアシスト」という視点は、立場が変わった今、プロデューサーとしての仕事術に直結している。
「プロデューサーの仕事の本質も、実は同じなんです。タレントという常人とは違う才能を持つ人たちに、いかに気持ちよく動いてもらい、面白い企画を作れるか。お弁当選び一つとっても、収録3本目でお疲れなら何がいいか。あの時の裏方の仕事を徹底的に仕込まれた時期は、今のキャスティングや現場作りにおいて間違いなく生きている。誰かに教えてもらうのではなく、相手を観察して先回りする。そのマインドが、1年目の雑用の中で叩き込まれた気がします」
雑用に意味を見出したその経験が、今の彼を支えるプロフェッショナリズムへとつながっている。
ディレクターからプロデューサーへと階段をのぼる中で、高橋は一つの大きな壁にぶつかる。
今までやっていたバラエティ番組ではなく、AKB48の深夜番組への異動だ。
当時の彼は「アイドル番組は作り手として面白くないのでは」と冷めた視線を送っていた。
ファンが見たいものを提供するだけの場所、という偏見があったのだ。
しかし、この配属が転機になった。
きっかけは、当時AKB48の総監督を務めていた横山由依氏の卒業ライブだった。
「事務所の方に言われて、ライブに足を運んだんです。でも、そこで歌われた『太宰治を読んだか?』という曲の歌詞に、衝撃を受けました。
その曲が描いていたのは、孤独の中で生きる意味すら見出せずにいた若者が、太宰治の作品をきっかけに、それを語り合える唯一無二の友達と出会えたことを喜ぶ、というもの。
あぁ、エンタメの本質はこれだな、と」
高橋は気づいた。コンテンツ自体が「共通言語」となり、孤独だった個人と個人が結びつき、そこに強固なコミュニティが生まれる。
ライブ会場で目にしたファンのつながりは、驚くほど楽しそうで、熱量に満ちていた。
その「つながり」こそが、人の人生において最も尊く、価値なのだと確信した。
「そのつながりをうむコンテンツを作るという意味を見出してからは、番組作りへのやりがいを強く感じるようになりました。企画にも一段と力が入りましたし、リアルなイベントを増やすといった試みも進めていきました。結果として、番組自体もその後、良いものに変わっていったと思います。」
2023年に独立し、自ら起業した高橋の働き方はフレキシブルだ。
現在は自身のYouTube『ReHacQ』とABEMAの仕事を「半々くらい」のリソースでこなしている。場所にとらわれず、どこでも仕事をする。そんな身軽な彼を支えているのは、過去20年のつながりだった。
「独立して痛感したのは、やっぱり誰かの力を借りないと仕事はできないということ。
その時に、真っ先に頼るのは過去につながった人なんです。新しい才能をいきなり探すのは無理があるし、リスクも大きい。結局、今の会社の役員や『ReHacQ』を支えるディレクターは、10〜15年前にテレビの現場で苦楽を共にした仲間。20年経ってもまだ一緒にやっている人もいます」
かつて新人時代の自分を厳しく指導した先輩が、今はディレクターとして高橋氏のプロジェクトを支える。そんな関係性が今の彼の基盤だ。
「プロデューサーの仕事の本質はチーム作りです。阿吽の呼吸が通じる仲間をどれだけ確保できるか。過去の蓄積がそのまま今の戦力になっている。電話帳を見返して『あ、あいつに頼もう』と思える関係性をどれだけ築けてきたか。それがすべてですね」
新しい才能を探すよりも「かつての仲間」を選ぶ最大の利点は、現場における「共通言語」の有無にあるという。
「演出の仕事って、演出家がやりたいことを叶えるために皆に集まっていただく、という発想なんです。だから、演出家の人の好みや『何が好きで何が嫌いか』を分かっている人がチームにいると、仕事が圧倒的に早くなる。言葉を少し発しただけで『あ、それこういう意味ですよね』と通じる阿吽の呼吸。これこそが、苦楽を共にしてきた古い仲間と仕事をする最大のメリットなんです」
インタビューの終盤、高橋は若手ビジネスパーソンに向けて、熱のこもったメッセージを残してくれた。
効率化やタイパが重視される現代において、彼はあえて「量」の重要性を説く。
「結局、質より量、なんですよ。これをやり続けた人だけが、結果的に差別化できています。世の中が『質だ、タイパだ』と言って、無駄を削ぎ落として量を捨てている。だからこそ、あえてバカみたいに量をこなした人間だけが、10年後、20年後に圧倒的な差をつけて突き抜けている。僕の周りの成功者も、結局はそこに行き着いています」
未熟なうちから「意味のある仕事を教えてほしい」と求めるのは、仕事というゲームのルールを見誤っているのかもしれない。
高橋は、意味など分からない雑用の中に意味を見出し、圧倒的な作業量をこなすことで、自分だけの「武器」を研ぎ澄ませてきた。
「今の時代は、僕らの頃みたいに細かく叩かれないから、逆に可哀想だなとも思います。不平等な社会というゲームの中で、唯一『量』だけは自分の意思でコントロールできる変数なんです。泥臭い作法をこなし、圧倒的な量を投じる。その先にしか、本物の質は見えてこないんだと思います」
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「無駄だ」と切り捨ててきたものの中に、実はプロとしての本質が眠っている。
賢く立ち回って近道を探すだけでなく、まずは目の前の小さな仕事を磨き上げること。
そんな泥臭い積み重ねこそが、不平等なこの世界を生き抜くための、
一番確実な武器になるのかもしれない。![]()