一定の成長を遂げた企業が、さらに事業を拡大させるためには欠かせないポイントと言われる「組織力」。
IT 技術の急速な発展やリモートワークの増加、終身雇用制度の崩壊など、将来予測が難しいとされる現代のマーケットにおいて、社員の能力を最大限に引き出しつつチームの成長を促進することが、企業にとっては非常に重要なテーマとなっています。
そこで「個人」と「組織」に対してイノベーションが生まれる組織カルチャーづくりを支援する、プロノイア・グループ株式会社のピョートル・フェリクス・グジバチ代表取締役の基調講演から、組織力を高める人材戦略を紐解きます。
登壇者紹介
ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ株式会社 代表取締役
連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経て、Google で人材開発、組織改革、リーダーシップマネジメントに従事。2019 年に起業家教育事業の TimeLeap を共同創立。
グロースマインドセットによる個人・組織の成長を促す
経営者やマネジメントに携わる方にとって、組織や個人の生産性を高めることは重要なミッションです。組織力を高めるグロースマインドセットについて解説します。
グロースマインドセットの概念が効果的
組織力を高めるためには、難易度が高く学びの多い機会を積極的に引き受ける姿勢、グロースマインドセット(※)の概念が非常に効果的だと言われています。
※グロースマインドセット:人の能力は経験や努力で高められるというポジティブな考え方
<グロースマインドセットのポイント>
・私は難易度が高く学びの多い仕事を好んで引き受けます
・私は新しい能力を開発する機会を常に探しています
・高い技術や知識レベルが必要とされる仕事を好みます
・人は皆、自分自身を大きく変えることができると思っています
この観点から経営層やマネジメントに求められていることは、努力次第で人は伸びるとの信念を持ち、社員一人ひとりに対しても、どのように成長してもらいたいかグロースマインドセットを基本に整理することです。
根底にあるパターンを変化させ組織改革を実践する
ピョートル氏:また、企業の経営層として組織戦略やパフォーマンスだけではなく、社員個人のキャリアや生き方を見極めていくことも重要です。
複雑に見える組織改革を進めるためには、コミュニケーションやカルチャー、働きがいなど個々の課題に対してアプローチすると同時に、現状の根底にあるパターンを変化させるきっかけを作ることも大きな論点になります。
第一歩として以下の3つの項目を解説します。
<組織改革に必要な視点>
・あるべき意識と行動を定義して推奨する
・マネジメントに建設的なピアプレッシャーを働かせる
・インフラや制度、ツールを設計し新しいパターンの土台とする
ではひとつずつ説明します。
あるべき意識と行動を定義して推奨する
マネジメントとは長期的なパフォーマンスを見通すことです。そこで社員個人の市場価値を高め、組織として変化に柔軟に対応し新しいものを生み出す、しなやかさを持たせることが理想的な状態です。
「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれるGoogleが行った調査結果から、チームの生産性には以下の要素が大きく影響することが分かりました。
<チーム成功への鍵|プロジェクト・アリストテレス>
・「心理的安全性」が高いこと
・「信頼性」が高いこと
・「構造」が「明瞭」であること
・仕事に「意味」を感じていること
・社会に対して「影響を」与えていること
このうち特に重要な「心理的安全性」について説明します。
社員のパフォーマンスを高めるためには、以下4つのポイントから「心理的安全性」をしっかりと確認することが組織開発の第一歩と言えます。
<心理的安全性を高めるポイント>
・私は自分の職場で自分らしくいられます
・私が新しいことにチャレンジすることに、上司や同僚は協力的です
・職場で周囲がネガティブなプレッシャーをかけることはありません
・チーム内の意思決定は、全員の意見が尊重されます
一方で生産性が高い組織の文化には、心理的安全性がある故の厳しいほど率直で建設的な意見の対立や衝突も必要不可欠となっていることが分かっています。
職場は心理的安全性と同時に求められる成果基準が高いことで、パフォーマンスを発揮することができる場所です。この両立を図りつつ、社員がベストを尽くせる場所を提供していくことが、マネジメントの大切な仕事です。
マネジメントに建設的なピアプレッシャーを働かせる
マネジメントの土台は以下の4点です。
<マネジメント職の土台>
・心理的安全性:建設的なチーム作り
・現状の把握:方向性・戦略の見極め
・フィードバック:個人のサポート
・リーダーシップ:チームの代表としてリソースなどの確保
その上で社員が直面しているボトルネックを見極め、業務指導・教育・コーチング(問題解決)を行い最高のパフォーマンスを発揮できる状態にすることが、マネジメントの重要な仕事だと考えましょう。
人材業界で大きく取り上げられた「プロジェクト アリストテレス」と並ぶGoogleの「プロジェクト オキシジェン」では、マネージャーに必要な8つの行動規範が提唱されました。
<Googleが提唱する、マネジメントに必要な8つの行動規範>
1. 良いコーチであるか?
2. チームを勢いづけ、マイクロマネジメントをしていないか?
3. メンバーが健康で過ごし、成長を遂げることに感心を払っているか?
4. 生産的かつ成果主義であるか?
5. チームの良き聞き手であり、コミュニケーションを活発に取れているか?
6. メンバーのキャリア形成を手助けしているか?
7. 明確なビジョンと戦略を持っているか?
8. チームにアドバイスできる技術的な専門知識を持っているか?
ピョートル氏:こちらを参考に、良いコーチとしての第一歩を認識しましょう。
大切なことはメンバーを人として見て、価値観や最適解を見極め寄り添いながら、個人とチームのパフォーマンスを高めていくことが管理職のあるべき姿です。
また、チームやメンバーの成長のためには次のポイントも押さえてください。
・メンバーの自己認識を高めるコーチング
・心理的安全性による自己開示
・自分の価値を仕事と繋げる自己表現
・結果的に自己実現を可能にする
インフラや制度、ツールを設計し新しいパターンの土台とする
ピョートル氏:最後にインフラを整備する際、組織は何のために在り、どういう仕組みの中で個人がどのようにパフォーマンスを発揮するかといった最終目標を念頭に置き、その「問い」に対応するシステムを導入することが重要です。
パフォーマンスをパイプラインとして考えると、日常業務で生じるさまざまなボトルネックを解消する役割を持つものがテクノロジーであり、具体的に解決したい課題を精査してから導入すると有効に活用できます。
<個人のパフォーマンスの「パイプライン」>
・認識:何を求められているか認識しているか
・意欲:それを実行することを望んでいるか?
・リソース:情報やツールを持っているか?
・効力感:彼らには選択肢があるか?結果をコントロールできるか?
・スキル:それを実行できる能力があるか?
・応用:スキルを応用できるか?
・承認:パフォーマンスは認められるか?
・説明責任:やらなかった場合の影響はあるか?
ピョートル氏:それぞれの組織で何を解決したいか、理想を描き、組織がスムーズに動けるようなシステムを導入しましょう。
最終的な着地点は社員がボトムアップし問題解決が可能となり、個人の能力が最大化できる「問う文化」を醸成することです。
ここを成長の基盤とする文化を発展させることが、組織力を高めることに直結しますので、みなさんの企業様でも参考にしてください。
ピョートル氏:組織のメンバーがお互いから学び、経験から新しい価値を生み出し、振り返りながら行動につなげていくことができれば、長期的なパフォーマンス向上につながります。
<学びの3つの軸>
・お互いからの学び:好奇心を持てば誰からでも、どんなテーマでも学べる!
・実験・経験:リスクやいつもと違うパターンを試し、応用できる経験を得る!
・振り返り:「振り返り&行動」のセットで自らの学びを深める!
ピョートル氏:今回ご紹介した「理想像を描く」「マネジメントの役割を整え建設的なピアプレッシャーを働かせる」「制度を整える」の3つのステップにより、素晴らしい組織作りを実践していただけたらと思います。
まとめ
個人の集合体である組織のパフォーマンスを高めるためには、社会に対するインパクト(影響力)や、仕事の意味や目的・プロセスを明瞭にし、お互いを信頼することで心理的安全性を担保することが重要なポイントであることが分かりました。
今回の基調講演をご参考に、組織力を高める施策をぜひ実践してください。