採用難と言われる昨今、注目を集めているリファラル採用ですが、「運用してみたがうまくいかない」「何から始めていいのかわからない」といった声も聞かれます。
今回は年間200名以上を採用するSansanでリファラル採用を担当している素花 玲香が語る、事例に基づいた「リファラル採用のはじめ方」についてご紹介します。
登壇者
Sansan株式会社 人事部 中途採用グループ
素花 玲香(そばな・れいか)
広告営業を経て2016年にSansanへ入社。中途採用におけるオペレーション構築に携わり、現在はダイレクトリクルーティング担当として、スカウト、リファラル等での母集団形成を担当。
Sansanにおけるリファラル採用の変遷
素花:Sansanは現在1,200人規模の組織になっており、年間200人を採用している状況です。最も採用ボリュームが多いのは営業職とエンジニアですが、他にもさまざまな職種の方に入社いただいております。
ここからはSansanの事業変遷を4つのフェーズに分けながら、リファラル採用の変遷についてお伝えしていきます。
創業期:トップダウンでリファラル採用をプロジェクト化
素花:社員が100名までの創業期はリファラルが主な採用手法でした。リファラル採用を増やすために社内で「マイミャク(「私の人脈」の意)」という名前をつけ、社員全体で推進しやすくしたり、インセンティブの設計をおこなったりしたほか、当時のオフィス内にバーのような場所を設け、社外の方を気軽に呼べるような場所を設けたりしていました。
ほかにも社長の寺田のトップダウンで、友達の中で一番優秀だと思う人に「うちの社長に会ってみない?」と声をかけるというプロジェクトも実施しました。
「社長に会えるよ」っていうと、転職の意図がなくても会いたいじゃないですか。実際にそうした思いで社長と話してご縁が生まれ、今も社内で活躍されている方もいらっしゃいます。
この規模感ならトップダウンでも動けます。私は入社前でしたが、担当者からはリファラル採用の事例がそれほどない中でも、経営者がしっかりコミットして社員に背中を見せていくことで、社員に意識付けることができたことは大きかったと聞いています。
拡大期:リファラル採用専任担当者を設ける
素花:社員規模が200名になった拡大期は、私が入社した時期でもあります。この頃はまだリファラル採用のフローがそれほど明確ではなく、担当者もいなかったので、私がその整備を行っていくうちに自然と任されるようになりました。
担当になったことで、片手間ではなくしっかりとリファラル採用にコミットできるようになったのはよかったですね。リファラル採用を強化していくのであれば、専任担当者を置いてコミットする体制を整えるのが、個人的にはおすすめです。
第二創業期:手法の変化
素花:現在私たちは第二創業期というフェーズに入っており、営業やエンジニアなどの組織をより大きくしようとしています。
ただこの頃から、人事だけではそうした施策を回すのが難しくなってきたため、HRBP(※1)の発足やセールスイネーブルメント(※2)など、現場を巻き込んで進めていく手法に変わりつつあります。
※1 HRBP:Human Resource Business Partnerの略。事業部門や経営者といった責任者のパートナーとなり、人事とビジネスの2つの視点から事業成長を支援する。
※2 セールスイネーブルメント:営業組織強化のための取り組み。
1000人以上の採用経験から学んだ効率的なリファラル採用の運用方法
素花:これまでの経験を踏まえると、リファラル採用を効率的に始めるには、以下3つのフェーズが必要だと感じました。
1.認知をあげる
素花:まず「組織内でリファラル採用に取り組んでいく」という認知は必要だと思っています。どこかの情報で見たのですが、人は自分の友人を紹介するというアクションを取った日から3日以内に何かしらの情報に触れてアクションを取っているというデータがありました。
つまり、いかにリファラル採用という言葉を頭の中に残しておけるかが大切だということです。
あとは「なぜリファラル採用をするのか」「どういう人を採用しているのか」という部分を伝えるのはすごく重要かなと思っています。なぜ採用によって組織を強化する必要があるのか。それは事業成長であり、事業戦略があるからですよね。
ですから、Sansanであれば全社会議や朝会など定期的に行われるところで経営陣から話をしてもらう。もちろん普段のミーティングでも、Slackといった社内のコミュニケーションツールでもいいので、発信していくことが重要だと感じています。
また任意参加で社内説明会の機会も設けています。「早めに採用したい」と思っている組織の中から登壇したい方を事前に募り、簡単に3分間ピッチのような形式で求める人材像を社内にシェアするというものです。社内でどんな人が求められているのか、解像度が高まるので、マイミャクで紹介する際の参考にしていただいています。
報酬制度を最後に記載しているのは、一定の効果はあるものの、それだけでは続かないと感じているからです。カルチャーの一つにしないといけないと思っていて、どうメッセージングするかとか、途絶えることなく情報発信していくのかが肝だと思っています。実際にIT系企業にヒアリングしたところ、金額を挙げても紹介数が増えるわけではないことがわかっています。
<リファラル採用を成功させるポイント>
・社員が定期的にリファラル採用の情報に触れられる機会を作る
・経営陣を巻き込んで目的を伝える
・専任担当者を設けるなどリファラル採用に向き合える体制を作る
2.紹介のハードルを下げる
素花:リサーチおよびアプローチのために必要なのは、社員の心理的ハードルを下げることです。そのためにやっていることのひとつに「マイミャク会食」があります。
これはマイミャクの方とご飯に行くときに、一人一万円を会社から出しますというものです。まずは相手と接点を持つことが重要だと思うので、そうした機会を気軽に作ってもらうための制度になります。
あとは交流会も設けています。こうしたイベントは人事に紹介するより楽なんです。
実は以前、紹介数を目標値に据えたことがありましたが、全くうまくいかなくて。紹介はしてもらっても面接に通過しなかったり、そもそも紹介できる人がいなかったり。
さらに、そういうことを経験してしまうと人を紹介するハードルが上がるんです。こうした教訓があり、もっとハードルを低く、スクリーニングもない状態でマイミャクの方々に接点をもてるかというところで交流会を開催したという経緯があります。
3.交流会を採用イベントとは伝えない
ここでポイントなのが、社内には採用イベントだと言わずに、マイミャクも呼べる交流会だと伝えて開催したことです。そうすると社員は「まずここにマイミャクとなる知り合いを呼べばいいんだ」という気持ちになるのでハードルが下がります。実際に交流会をきっかけに入社が決まった方もいらっしゃいますのでおすすめですね。
4.紹介者はハブ的な役割に
一方、リファラル採用においては紹介者と非紹介者の不和につながってしまうことを懸念して紹介数が伸びないというのもあると思います。特にエンジニアはこの部分を気にしている傾向があります。
ですからいい人がいたら交流会に呼んでもらって、社員が話したいと思ったらこちらから口説くから、紹介者はハブの役割を果たしてほしいというのは伝えておいたほうがいいと思います。
5.紹介者とは採用プロセスやスタンスのすり合わせを
あとは紹介者と一定のスタンスのすり合わせはしておいたほうがいいですね。採用のプロセスや内定率を共有して、全員が受かるわけではないことを伝えておく。だからこそお互い位にフラットに進めていきましょうという認識合わせは結構重要かもしれないですね。それをしておけば、体感値としてはそこまでギクシャクはしないです。
<紹介してもらうフェーズで重要なポイント>
・期待値コントロールや実情の共有を怠らない
・リファラル採用の目的を伝える
・紹介数ではなくまずは多くの人を紹介してもらうことを目的値にする
採用フローの可視化で紹介のハードルを下げる
素花:最後の紹介してもらうという部分で重要なのが紹介後の採用状況の透明性と共有です。
素花:これは社員の声が元になっています。以前、どうすればもっと紹介してもらえるか社員にアンケートを取ったところ、「マイミャクを紹介したのに勝手に見送られて気まずくなった」とか「大切なつながりなので紹介した人たちがその後どうなるのかが見えないのは不安」といった声が上がったんです。実際にそういったクレームが人事に入ったこともあったので、フローの整備、可視化を行ったという経緯があります。
例えば一定のアクションに対して人事部ではこういうふうに動いてますよ、だとか、結果がどのようにマイミャクに連絡されるのかといった部分を可視化して図にしました。
素花:あとは、面接が進んでいく中で、紹介してくれた方が結果どうなったかを逐一紹介者に報告するというのを、オペレーションの中に組み込みました。結果、クレームは減っていき、今はそうした声は上がらなくなりました。
組織全体でリファラル採用を意識し紹介できる環境づくりを
リファラル採用は紹介してもらうことだけを目的とするのではなく、会社全体でそうした機運を作り上げていくことや、社員の心理的ハードルを下げる取り組み、専任担当者の配置などが重要になります。
これまでリファラル採用にチャレンジしてきたものの、うまく行かないという方や、これから取り組もうと考えていらっしゃる方は、ぜひ今回の内容を制度設計の参考にしていただければ幸いです。