セミナーレポート
2023年2月3日 開催

世界に事業を広げるメルカリの人事戦略
~グローバルテックカンパニー実現に向けた取り組み〜
PRC2023 Vol.5

ダイレクトリクルーティングやリファラル採用などが当たり前になる一方、転職に向けたリスキリング(学び直し)やスキル習得による、ビジネスパーソン側のキャリア形成にも変化が起きています。こうした中、企業では優秀な人材を採用し定着してもらうために、経営戦略としての人事の役割も非常に重要になっています。

今回は2023年2月3日にEight Career Designが行った「正解のない採用・人材開発への企業の挑戦- Professional Recruiting Conference Vol.5」より、世界に事業を拡大し続ける株式会社メルカリが実践してきた、全社的な施策や人事部門の体制などを紐解きながら、これから求められる企業の在り方や採用の考え方についての内容をご紹介します。

登壇者

株式会社メルカリ 執行役員 VP of HR Marketplace

山本 真一郎(やまもと・しんいちろう)

ニューヨーク州立大学大学院を修了後、P&Gジャパン人事部に入社。工場人事責任者や日本/韓国の人材開発責任者などのHRリーダー職を担う。その後、J&JとGEにて日本やアジア太平洋地区の事業部人事責任者等を務める。2021年7月にメルカリJPのHRディレクターとしてメルカリに入社、22年7月より現職。

Sansan株式会社 執行役員

小川 泰正(おがわ・やすまさ)

2002年エン・ジャパン株式会社に入社。リーマンショック後の事業再編に関わったのち、子会社の取締役として事業立ち上げに従事。2015年にSansan株式会社に入社し、執行役員として、営業DXサービス「Sansan」のカスタマーサクセス、マーケティング等を牽引。2020年よりEight事業部にてEight Career部 部長に就任。キャリアプロフィール「Eight」のダイレクト採用プラットフォーム「Eight Career Design」事業の推進に従事。2021年より「Eight Marketing Solutions」事業も兼務。

施策の礎となる新しいミッションと3つの柱から成るバリュー

メルカリが目指すもの

山本氏:弊社は2023年2月に創業10周年を迎え、新しいミッションを策定しました。

<グループミッション>
「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」

※2023年2月1日にメルカリの新ミッションが発表される

山本氏:また3つのバリューを掲げ、さまざまな施策やプロセス、社員の働き方に及ぶ全社共通の意識として浸透するよう努力しています。

<バリュー>
Go Bold「大胆にやろう」:世の中にインパクトを与えるイノベーションを生み出すため、全員が大胆にチャレンジし、数多くの失敗から学び実践する
All for One「全ては成功のために」:一人では達成できない大きなミッションを、チーム全員が最大のパフォーマンスを発揮することで実現する
Be a Pro「プロフェッショナルであれ」:メンバー全員がプロフェッショナルとしてオーナーシップを持ち、日々の学びを怠らず成果や実績にコミットする

山本氏:現在メルカリはアメリカオフィスの他、インドにも開発拠点を立ち上げました。インドでは昨年から拠点長やHRの採用を開始しています。

コロナ禍で一時採用を抑制したものの従業員数は順調に伸び、現在は2000人を超え、事業の成長に合わせ組織も拡大しているところです。

山本氏:また約40か国以上からタレントが集まり、東京のエンジニアリング組織では半数が外国籍の社員です。多様性にあふれた組織になっています。

組織の多様性を支える仕組み

バリューに基づいた新しい働き方「YOUR CHOICE」

山本氏:こうした組織の多様性を支えるために、昨年から取り入れた仕組みが「YOUR CHOICE」です。基本的にリモートであること、国内であればどこででも仕事をすることが可能であるなど、ワークスタイルを自由に選択できる制度です。

とはいえ目標は「成功のため」です。All for Oneな働き方や、結果を出すプロフェッショナルな姿勢など、会社のバリューをしっかりと実現できているかという点は、常に求めていかなくてはならないと考えています。

<組織の多様性・柔軟な働き方>
リモート/出社の有無、働き場所などパフォーマンス・バリュー発揮がもっとも高まるワークスタイルを社員が自由に選択可能に

小川:YOUR CHOICEとバリューを結びつけるという点で、御社でうまく行っている理由は何だと考えますか。

山本氏:バリューの強さゆえかもしれません。バリューの浸透は経営陣が非常に重要視しており、さまざまな局面で提示されてきました。

リモートでも「Be a Pro」につながる働き方ができているかどうか、「Go Bold」になっているかなど、バリューを追求する働き方の実現がもっとも大切なことだと、社員自らが考えているからこそ、自由なワークスタイルが実現できたのだと思います。

多様化によるコミュニケーションの変化

山本氏:組織が多様化し社内のコミュニケーションの在り方が、ハイコンテクストからローコンテクストへ移行しています。
※ハイコンテクスト:暗黙の了解(前提となる、知識やカルチャー)が多く、行間を読むようなコミュニケーション方法
※ローコンテクスト:前提となる、知識やカルチャーの理解がなくても分かるよう、シンプルで明快なコミュニケーション方法(出典:株式会社メルカリ

山本氏:会社としての考えをほぼ全て言語化しドキュメントに収めました。また議論して決めていたことをガイドラインに明確に打ち出し、判断基準となるよう整備しています。

さらに外国籍社員に対応するために日本語話者はやさしい日本語、英語話者はやさしい英語で、と容易なコミュニケーションを研修などでも展開しています。

常にバリューに基づいて同じ方向に全社員が向かっていくためには、ローコンテクストに移行し、しっかりと言語化をして解釈のズレがないようにすることが大事です。

<ハイコンテクストからローコンテクストへ>
・似た経歴のメンバー ➡ 多様性のあるメンバー
・暗黙知の共有 ➡ 形式知の共有
・個別判断 ➡ ガイドラインに基づく判断
・空気を読む ➡ わかりやすさ(データ・論理)
・単一言語 ➡ やさしい英語・日本語

メルカリのファウンデーション

山本氏:さらにミッションやバリューだけでは収まりきらない部分を、2つのファウンデーションとして規定しました。

山本氏:一つが「Trust&Openness」です。会社が社員を信頼しているからこそ、全社員が経営会議の議事録も含め、さまざまな情報を閲覧できるような状態を作り上げました。

山本氏:もう一つが「Diversity&Inclusion」です。社内はすでに豊かな多様性を持っていますが、それだけではなくお互いに包含できるような取り組みを、現在もまさに進めている状態です。

メルカリのカルチャーを言語化した「Culture Doc」

山本氏:メルカリの運営哲学や文化を、言語化してガイドラインとしてまとめたものが「Culture Doc」です。メルカリと社員が大事にする共通の価値観が言語化され、どのような考え方で組織作りを進めているのか、いつでも参照できます。

<Culture Doc>
・「メルカリ(会社)とメンバー(社員)が大事にする、共通の価値観」をまとめた社内向けのドキュメント
・多様性が求められれば求められるほど、メンバー同士を結び付け、お互いがパフォーマンスを発揮するための「共通の価値観」を持つことが大切

山本氏:このようにミッション、バリュー、ファウンデーション、そして人事組織に関するガイドラインまで「Culture Doc」で規定しており、さまざまなアクションを取る際のベースとなっています。

組織の多様性を支える仕組み

山本氏:多様化する組織の人事が各種施策を構築する際、どのような体制でアプローチしていくかという観点から、メルカリのHR体制を解説していきます。大きく分けるとメルカリでは本社機能と事業部の機能があります。

HR体制

山本氏:下図のCHRO(※1)に紐づく青い部分はCoE(※2)と言われる全社的な人事施策を執り行うチームです。HRデータアナリティクスや、HR戦略構築、組織開発や研修などの全社的な施策を決めて行くチームです。

下段の赤い部分は事業部となり、私が所属するマーケットプレイスとフィンテックが含まれます。メルカリジャパンの他、事業者向けの出品プラットフォームを提供する株式会社ソウゾウ株式会社メルペイ株式会社メルコインそれぞれにHRBP(※3)が存在し、採用もチームごとで行っています。

※1 CHRO=チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー/最高人事責任者/経営者レベルで戦略人事を実行する権限を持つ
※2 CoE=センター・オブ・エクセレンス 人事におけるCoEは評価制度や報酬体系など各制度の構築、研修やトレーニングの開発、人事システムの設計・開発など経営的な視点から人事制度を開発する
※3 HRBP=ヒューマン・リソース・ビジネスパートナー 経営者や事業責任者のビジネスパートナーとして、人と組織の両面から事業成長をサポートする存在。事業戦略をサポートする形で「戦略人事」を実現する人

CoEとの協働

山本氏:この体制でHRBPの大切なポイントは、CoEとの連携です。メルカリでは各組織を横断的に担当するHRBPが存在し、CoEとも連携しながら全社的な施策をいかに現場に展開していくか、逆に現場のニーズをいかに全社施策に反映するかなどを協働しています。

事業部HR組織としての具体的な取り組み

山本氏:HRBPは中長期経営計画や予算の段階から議論に入り、組織体制まで考えなくてはなりません。経営戦略から組織への落とし込みを考え、組織を望ましいものに変容させ、組織文化を構築することが重要な仕事です。組織文化や人々の行動を事業成長に向けて作り変え、その結果としてアウトプット(成果)があるという考え方のもとで動いています。

<事業部HRとしての働き>
1. 中長期経営計画
2. 年次予算計画
3. 経営戦略
4. 組織
5. 組織文化
6. アウトプット

Employee Journeyを通じた伴走

山本氏:HRBPは一番身近なHRですから、社員のエンプロイー・ジャーニーを通じて伴走していくことは非常に大切な仕事です。

<Employee Journeyを通じた伴走>
・採用:構造化面接・評価など
・オンボーディング:メンタリング、チャットランチ、語学学習サポート
・業務:1on1、エンゲージメント・サーベイなど
・育成:社内外研修、社内外コーチングなど
・評価:カリブレーション、マネジメント360など
・登用&異動:インターナル・ジョブ・ボード、タレント・レビューなど
・働き方:YOUR CHOICE、merci box
・退職:退職インタビューとインサイトの取得、アルムナイネットワーク

まとめ

バリューの浸透や「YOUR CHOICE」、組織の仕組み構築やHRBPを必要な各所に配置したHR組織など、メルカリの施策には非常に参考となるポイントがたくさんありました。

事業成長に欠かせない人材の定着を実現するために、今回のセミナーからヒントを得て、各社で実践していただければと思います。

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