時代の変化が激しい現代において、企業が生き抜いていくためには、人事戦略も経営戦略に合わせて考えていく必要があります。変化についていくだけでなく、スピード感を持って物事に向き合っていかなければならない今、人事に求められるのはどのような姿勢なのでしょうか。
今回は2023年2月3日にEight Career Designが行った「正解のない採用・人材開発への企業の挑戦- Professional Recruiting Conference Vol.5」より、ベルフェイス株式会社 CHROの矢野駿氏にご登壇いただいた、事業戦略の転換に合わせて推進した人材戦略の裏側についての講演内容をダイジェストでご紹介します。
登壇者
ベルフェイス株式会社 CHRO
矢野 駿(やの・しゅん)
デルジャパンに新卒で入社後、テクニカルサポートエンジニアを経て、新卒・中途採用を担当。その後、アマゾンジャパン、日産自動車を経て、2018年7月にメルカリに入社。全社の採用責任者や、HRBPの立ち上げ責任者など、幅広い人事業務を経験。2020年10月よりベルフェイスに参画、2021年10月より現職。
事業の変遷と共に変化した採用手法
人件費が大きな負担に
矢野氏:2015年〜2020年は売上が伸びていったフェーズで、より高みを目指すために、大規模採用をしていました。2020年上期のコロナ禍に入り始めの時期は、コロナ禍を追い風と感じていたため、より採用を加速しています。
この頃はリードも多くあり、投資の観点で採用を進めていたため、一時的に赤字になっても、この伸び率ならすぐに売上が追いついてくると判断していた部分もありました。ところが、2020年後半くらいから、徐々に売上の伸びに計画とのズレが見られるようになりました。私が入社したのは、このタイミングでした。
矢野氏:この時点でベルフェイスは、このままの売上の伸び率が続くようであれば人件費という固定費をまかなえなくなる、と気がつきました。
入社して3ヶ月目くらいで「これ、まずいです」という話を経営陣に伝え、改革に乗り出します。採用する部門や役職を絞るなど、さまざまな施策を進めてはいたのですが、固定費が上がっている部分に対しては、抜本的な解決をしなければいけない状態でした。
同時に会社として生き残るためには、プロダクト自体を強化する必要があり、固定費を削減しながら開発側に強い人材を採用しなければいけないという、まさに、人事が会社の将来を担う最重要な立ち位置になったのです。
希望退職を募りながら同時にハイレイヤーの採用を行う
矢野氏:当時300名ほどいた社員から100名の希望退職を募りながら、プロダクト開発に強いPMやエンジニアを採用していく、という相反することをしなければなりませんでした。
その上、当時の評価制度も会社の成長が前提となっていた制度であった部分もあり、コストもかかっていたことから、制度自体も見直す必要も出てきていました。
そして、コスト削減から採用、評価までを同時に対応しなければいけないカオスな状況の中、いかに従業員のエンゲージメントを上昇させるか、これが最も重要と考えた事項でした。
幸いにも、もともとベルフェイスでは、組織や個人のエンゲージメントをスコア化してトラックをしており、それまでの推移などがしっかりとデータとして管理をしていました。このデータと変遷を見ながら「ここが下がってるから次はこうしていきましょう」と、人事と経営陣とで全社向けのコミュニケーションを進めていくようにしました。的確なコミュニケーション施策を打ち続けた結果、2021年の終わりぐらいには、エンゲージメントスコアが希望退職を募集する前よりも高くなったのです。
矢野氏:2022年は、コストをコントロールしながら組織を強い形にしていく必要性がありました。そこで、HRBP(Human Resource Business Partner)のようなアプローチで、各事業部の状況に応じた施策に切り替えています。
矢野氏:引き続きハイレイヤー採用をしながら、営業担当者のモチベーションを上げるために、インセンティブ制度を導入しました。また、エンゲージメントスコアからの気づきも、より各事業部の状況に応じたコミュニケーション方法をとるようにしていきました。
採用強者ではない会社だからこそ課題を伝える
候補者には会社の魅力ではなくリアルな課題を伝える
矢野氏:多くの企業が、会社の魅力、ミッション・ビジョン・バリューに共感してくれる優秀な方を採用したいと考えていると思います。確かに、会社の魅力やミッションなどに共感してもらうことはとても重要です。でも、採用強者ではない会社が大手の採用に強い企業と比較されると、なかなか勝てないのが現実ではないでしょうか。
ベルフェイスも採用強者ではありません。そのため、魅力よりも、現状と課題感を伝える形に切り替えました。候補者イメージを、魅力やミッションなどに共感してくれる方から、現状の課題にワクワクして共に未来を作れる優秀な方、という方向に振り切ったんです。
正直で誠実な資料作成で惹きつけを行う
矢野氏:そうなると必要なのが、いかに会社の現状と課題感を正確に伝えられるかというところです。そこで自己紹介とアトラクト資料づくりにこだわることにしました。
矢野氏:面談や面接をリモートで行うメリットの一つに、画面共有でスライドを使った自己紹介が簡単にできることがあります。スライドは、面接毎にすべての面接官が必須項目を入れた形で作成するようテンプレートを作って、徹底できるようにしました。ここでは、候補者の方が選考を通じて、会社の課題感をメインに感じられるようにすることを大切にしています。
<自己紹介スライドの必須項目>
・自分自身が、なぜベルフェイスに入社したのか
・今、課題に感じていること、大変だと感じていること
課題を伝えることで「ベルフェイスはこう変わっていきたいんだ」と、逆説的なメッセージになるよう、かなり意識しました。また、候補者の方も、課題を聞くことで「自分が入社したらこの課題を解決できるな」と、現実的に価値を見出してもらうことにもつながります。
反対に、「課題に共感できないな」と感じると選考を途中で辞退される方が多いです。だから、最終面接まで進んだ時点で、ある程度課題に共感してくれてる方、という構図になります。そのため、オファーを出す際のアトラクト資料が重要になってくるのです。
<アトラクト資料に記載する項目>
・オファーを出す理由
・面接官全員からのウェルカムメッセージ
・配属部署と期待する役割
・懸念点を含めた面接のフィードバック
この資料は、候補者1名に対して20枚ほどのスライドにまとめて、オファー面談のときに条件通知書と一緒に渡しています。懸念点も正直に、そして誠実に伝える。こうした取り組みによって、採用がうまくいくようになっていきました。
候補者数・応募者数ではなく内定承諾率に目を向ける
矢野氏:アトラクト(惹きつけ)をしようとすると、どうしても実際よりよく見せようとしてしまいがちです。でもまず「私たちの素顔はこれです」と伝えることが重要だと思っています。
<面接官同士で意識していること>
・魅力だけではなく現実を見せる
・会社の課題をネガティブではなくポジティブなことと切り替えて説明をする
・共感も大事だけど、自分で将来を作り出せる人に特化しよう
採用強者ではない会社では、候補者数や応募者数を上げるのはなかなか難しいので、効率的に採用するときに重要視していきたいのが、内定承諾率を上げることです。
会社の魅力だけではなく課題を伝え、正直で誠実であることを意識して、惹きつけを行うことで、ベルフェイスでは2022年上期の内定承諾率が9割を超えました。
矢野氏:ベルフェイスのように希望退職を募るような経験はしないに越したことはないですが、コロナ禍も経てさまざまな状況に置かれていらっしゃる企業さまもおられると思います。人事としてつらい立場になっているときでも、いい意味で前向きにできることは何かを考えて取り組まれていかれるのがおすすめです。一緒に頑張っていきましょう。
まとめ
売上が落ちる中で人件費を削らなければならないという、人事としても過酷な状況から、エンゲージメントスコアを伸ばし、内定承諾率を9割超えにまで盛り上げたベルフェイスの取り組みから多くのことが学べるカンファレンスでした。
<採用に課題を感じている会社でやってみたい取り組み>
・会社の魅力ではなく、課題を伝えるように切り替える
・正直に、誠実に、真実をありのまま伝える
・課題をネガティブではなくポジティブに捉える
・会社に共感してくれる方ではなく、一緒に未来を作り出していける方を探す
優秀な人材の採用が、多くの企業で大きな課題となっている今。従来の採用手法ではなかなか出会えなかった優秀な人材への、ダイレクトなアプローチを検討されているなら、Eight Career Designを活用してみてはいかがでしょうか。既存市場では見つけられなかった人材に直接アプローチできるツールにご興味ございましたら、ぜひ、お問合せください。