セミナーレポート
2022年2月24日 開催

激変する時代を勝ち抜く戦略人事のあり方とは

ダイレクトリクルーティングやリファラル採用など、企業の人事にはさまざまな課題が掲げられています。こうした中で、改めて注目されているキーワードが「戦略人事」です

戦略人事とは、人事部門が経営戦略に積極的に参画し、人材と組織を企業成長の大きな力として活用することで、日本国内でも本格的に取り組む企業が増えてきました。

一方で具体的な手法や施策の構築方法が分からないという声も聞かれます。

今回は2022年2月24日に開催した「Professional Recruiting Conference Vol.3」の中から、株式会社サイバーエージェントの曽山 哲人氏、株式会社メルカリの木下 達夫氏、Sansan株式会社の大間のセッションをレポートします。それぞれのフェーズに合わせた各社の個性的な戦略人事の具体策を紹介いただきました。

登壇者

曽山 哲人(そやま・てつひと)

株式会社サイバーエージェント 
常務執行役員 CHO 

1995年入社。2005年人事本部長に就任し現在も人事全般を統括。

 

木下 達夫(きのした・たつお)

株式会社メルカリ 執行役員 CHRO

P&Gジャパン、日本GEでの人事、採用、人材開発を経験。2018年メルカリ入社。

大間 祐太(おおま・ゆうた)

Sansan株式会社 取締役 執行役員 CHRO

人材系ベンチャー企業や採用メディアなどを経験し、2010年にSansanへ入社。人事戦略を指揮。

モデレーター

村松圭子(むらまつ・けいこ)

株式会社THRIVE 代表取締役
エグゼクティブコーチ、システムコーチ
採用コンサルタントに従事した後コーチングを学び組織の改革やチーム作りに関わる。

3社が考える戦略人事の位置づけと重要性

村松氏:そもそも戦略人事とは何か、なぜ今必要なのかという点について、みなさんどのような視点で捉えているのでしょうか。

曽山氏:CEOなどの経営陣が決めた大きな目標に対して、人と組織がどのように結果を出せるか様々な施策を実行していくのがCHRO、つまり戦略人事だと考えます。

ここで重要になるのが「整合力」。つまり整える能力のことです。整合性の例としては、下記のようなものがあります。

・経営と現場の矛盾
・知識と実践の試行錯誤
・ロジックとエモーションのどちらを優先するか

最後のロジックとエモーションでは、社員の感情がついてこない施策に対して組織は動かないので、この部分の整合力も非常に重要だというのが私の考え方です。

木下氏:私は戦略人事とは組織・事業のWinと、従業員個人のWin、双方のWin-Winの最大化をミッションとする人事だと考えています。Win-Winの例を以下いくつか例示しますが、この最大化という、難しい方程式に、チャレンジすることこそやりがいだと感じています。

<Win-Winの例>
・企業としての事業成長と社員一人ひとりの想いや成長
・メルカリというマーケットプレイスと、それを作っているメルカリの社員
・カスタマーエクスペリエンスとエンプロイーエクスペリエンス

企業自体と社員ひとりひとりの成長が同時に実現できるような打ち手をしっかりと出し、両者が高いところでバランスを取ってしていくこともWin-Winの最大化です。

大間:私はシンプルに経営戦略を実現するため、人事として意思や意図を持ってどのようなアクションを取っていくかが重要だと思います。

常に新たな取り組みを生み出していく「非連続の事業成長」を起こすためにも、人事がどのような施策でどのようなアクションを打っていくか、ということを総称して戦略人事と呼んでいるのだと思います。

村松氏:では、戦略人事の立ち位置とは、どのようになると思われますか。

大間:「翻訳者的」であるべきだと思っています。

事業成長の先にある会社のミッションやビジョン。その意義を伝達していくために、社員のモチベーションやエンゲージメント向上に対し、評価制度や報酬面などの施策を整備することも戦略人事のアプローチのひとつだと考えます。

曽山氏:弊社では「コミュニケーション・エンジン」という概念で、経営と現場を結ぶものとして考えています。

大間氏のお話にもありましたが「翻訳者」という立ち位置ともよく似ています。
木下氏:メルカリでは人事が未来志向で考えることを大事にしています。「5年後や10年後に自分たちがどうなっていたいのか」というロードマップを作成して、中長期的な目線で組織能力を上げていくことを実践しています。

戦略人事として各社の具体策とは

村松氏:マーケットが変化する中で、特にコロナ禍の2年間で行ったこと、さらに現在各社が具体的に行っている戦略人事の施策を教えてください。

新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する(サイバーエージェント)

<サイバーエージェントの具体的な戦略人事施策>
・2021年10月にパーパスを発表
・リーダーズエージェント
・デジットグロース

2021年10月にパーパスを発表
曽山氏:弊社は中長期的にグローバルカンパニーを目指すと宣言していますが、現代の日本社会がこれだけ停滞している中で、社会全体を元気にしたいという思いから、「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というパーパスを発表しました。

・リーダーズエージェントの導入
また、もともと幹部やベテラン社員向けに社内ヘッドハンター(異動担当者)がいます。
幹部だけをフォローするポジションとして作られたのが「リーダーズエージェント」ですが、特に役員と幹部との意思疎通のほか、抜擢や配置換えなどによって個を生かすための専門のポジションです。

・デジットグロース
デジットグロースとはデジタルに強くなり、会社全体を成長させるという意味です。これによって経営判断の正確性・俊敏性、さらに俯瞰できる力も高まるため、現在強化に取り組んでいるところです。

「きっかけはダイバーシティ・アンド・インクルージョン」(メルカリ)

<メルカリの具体的な戦略人事施策>
・「成果評価」と「行動評価」の2軸において人事評価制度を刷新
・「社員ひとりひとりの選択=YOUR CHOICEを重視」

木下氏:世界的なマーケットプレイスを作るというミッションを掲げ、2018年あたりから外国籍の方の採用を始めたことが背景となっています。同じころに事業の多角化として今までにないような業界の人材もどんどん参画していただき、さまざまなダイバーシティ・アンド・インクルージョン施策が必須になったのが始まりですね。

多様性を持ちながらバリューである「オール フォー ワン」を実現するために、人事部門では「評価制度」や働き方の改革を進めました。

その際にバリューを薄めないような人事制度として、今まで総合評価だけだったものを「成果評価」と「行動評価」に分けることにしました。

特に「行動」は個人でコントロールでき、しっかりとバリューを体現できた人をきちんと高く評価することで報われるような仕組みです。

さらに社員それぞれがもっとも高いパフォーマンスとバリューを上げられる場所としてフルリモートも選択可能に。これがYOUR CHOICEを重視した施策です。

現在各地に移住するメンバーが続々と増えているのですが、今後どのようにチームマネジメントしていくのかを楽しみにしながらチャレンジしていこうと考えています。

全社員が集うオフィスに対する新しい考え方(Sansan)

<Sansanの具体的な戦略人事施策>
・オフィス・セントリックな働き方へ
・「マルチプロダクト体制」への組織改編を実施

ここ数年で働き方において大きな変化があり、昨年10月にオフィス・セントリックな働き方への切り替えを発表しました。

「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げている弊社にとって、社員同士のリアルな出会いや接点は非常に大事なことです。同じ空間と時間の中で社員から得られる熱量や偶然発生するバリューなどもあり得ます。

そこで、オフィスに来るのは基本的に週3回にしようという新しい働き方の方針を設定しました。

「マルチプロダクト体制」への組織改編を実施

これは創業以来一番大きな組織改正です。

弊社では創業以来、営業DXサービス「Sansan」、キャリアプロフィール「Eight」に経営資源を注いでいましたが、昨今では新しいプロダクトとしてクラウド請求書受領サービス「Bill One」やクラウド契約業務サービス「Contract One」も著しく成長しております。

これに伴い、各プロダクトごとに存在していたプロフィット部門をビジネス統括本部に、全ての開発メンバーを技術本部に移管して、全員がすべてのプロダクトに携わるような体制に大きくシフトしました。

各プロダクトを横断的に携わるような体制にしたことで、経営戦略によって開発リソースをどこに集中させるかという要求にも応えられるようになりました。

全社員が集うオフィスに対する新しい考え方(Sansan株式会社)
3社が行ってきた施策

見えてきた課題とやるべき施策

村松氏:まとめとして現時点で見えてきた課題や、やるべきことについてどのような視点で考えておられるかをお聞かせください。

全社で統一した一気通貫の制度を。ミドルマネジメントの声を大切に(サイバーエージェント)

曽山氏:弊社からは2点。ひとつめは目標から評価までの一気通貫を全社で統一すること。

今始めていることが「毎月上司と本人とでしっかり自己評価をして残していきましょう」という「MBO GEPPO」というものです。

もうひとつは中間管理職を大事にすること。半年に一回程度、マネージャーに対してアンケートを取るのですが、その回答は社長の藤田と人事担当役員以外は絶対に見ません。すると非常に具体的な業務の課題などを知ることができます。たとえば会議が多すぎるとかオンラインでの人材育成で困っていることがあるなど、中間管理職だからこそ分かる指摘がとても多く、事業成長には欠かせない施策になっていくと思います。

エンジニア人材をグローバルに強化。社内で成長できる仕組みづくりも(メルカリ)

木下氏:ひとつめはグローバルなエンジニア採用。コロナ禍で現在25カ国70名のエンジニアがメルカリ入社を待っている状態で、今年はさらに力を入れていきたいと思います。
ふたつめは成長意欲の高い人ほど、入社してから3年ほどで新しい環境を欲する傾向があります。そこでせっかくメルカリに入ってもらったので、メルカリの中で次々と新しい挑戦や成長を実現できるような仕組み作りを進めて行こうと思っています。

働き方の多様化による組織設計や報酬体系の強化(Sansan)

大間:昨年社員数が1000名を超え、今後はどう生産性を高めていくかがテーマになっていきます。高い生産性を求めて組織を設計すると、どうしても縦割りになってしまいます。そこで働き方の多様性など組織設計を進めなくてはならないと実感しています。

また事業成長に合わせたインセンティブなどの報酬体系もさらに強化したいと考えています。

まとめ

社会の情勢が目まぐるしく変化する時代だからこそ、企業にとって人事の役割が今後さらに重要になっていくことは間違いありません。

今回の講演を参考にしていただき、自社の今あるフェーズやミッション・ビジョンなども鑑みて、それぞれの特徴を生かした戦略人事の構築を実現していただけたら幸いです。

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