時代の変遷に伴い、今後企業にはこれまでの慣習や方法にとらわれない「非連続な事業成長」が求められます。そのためには会社の根幹である「人」に関わる部分、つまり採用手法の在り方が重要となります。
今回は2022年2月24日に行われた「Professional Recruiting Conference Vol.3」のうち、株式会社マネーフォワード 人材採用部の富田 政孝氏をスピーカーにお迎えしたセッション内容を、ダイジェストでお届けします。
わずか数年で300人の社員を約1,200人に拡大させながら右肩上がりの成長を続けるマネーフォワードの採用戦略に迫ります。
登壇者
富田 政孝(とみた・まさたか)
株式会社マネーフォワード マネーフォワードビジネスカンパニー HRBP室 採用部 部長
関西学院大学を卒業後、ジェイエイシーリクルートメントに入社。人材紹介に4年半携わり、2018年マネーフォワードへ人事として入社。採用担当として、マネーフォワードグループが約300人 → 約1,200人(2021年12月現在)に拡大するフェーズを経験。
現在は採用部 部長として採用チームの体制・戦略の立案及び実行を担当。
橋本剛(はしもと・ごう)
Sansan株式会社 Eight事業部 Eight Career部
マネージャー
新卒でカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社し、Tポイント提携営業やデータベースマーケティング事業に従事。2019年にSansan入社。「Eight Career Design」立ち上げ期にセールス面を中心に携わる。現在はEight Career Designのマーケティング責任者を務める。
採用市場の現状と今後求められる採用戦略
橋本:本題の前に、まずは現状の採用市場と今後求められる戦略についてお話させていただきます。
優秀なIT人材入職が企業課題に
橋本:2030年にはIT人材が最大79万人不足すると言われる昨今、人材獲得競争は激化の一途をたどっています。
こうした中、約300万人にご利用いただいているEightのデータから、直近3年における各業界の離職数に対する入職数の割合を見てみると、2021年に一旦離職が相次いだコンサルティング、運輸・物流、金融、人材といった業界の入職数が増えていることがわかります。
橋本:増えているのはITの専門スキルを持った人材です。つまり業界に関わらず、DXやAIといった側面からIT人材を求める企業が多いことがわかります。
一方で、2017年から25年にかけて労働人口が約400万人が減少すると言われる中、実際に転職市場に現れるのは就業者のわずか5%程度です。
つまり、いかに優秀な人材に入職してもらえるかが経営課題に直結する最重要テーマになっているといえます。
マネーフォワードの現状と採用戦略の変遷
橋本:ここからはマネーフォワードの富田様に、企業のビジョンやフェーズごとの採用戦略などを、事例を用いてお話しいただきます。
マネーフォワードのビジョンと現状
富田氏:弊社をご理解いただく上で一番大事なのが「MISSION・VISION・VALUE・CULTURE(以下:MVV-C)」の4つです。弊社の事業展開は、VISIONに掲げる『すべての人の、「お金のプラットフォーム」になる。』というところに紐付いています。
「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というMISSIONは、個人・法人を問わず、お金が原因で選択肢が狭まってしまったり、チャレンジできないという課題を、テクノロジーの力を使って解決していきたいという思いです。そのために「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる。」というVISIONのもと、「人生をもっと前へ」「社会をより豊かにしていく」というテーマをもって活動しております。
こうした中で、MISSION&VISIONを実現するためのVALUEやCULTUREを実践する組織づくりに力を入れています。
マネーフォワードの事業戦略ごとの採用戦略
富田氏:弊社はMVV-Cを重要視した採用を行っています。
▼フェーズ1:PMF〜上場まで
・従業員規模:1名〜200名
・採用チーム:1名〜5名
・キーワード:CULTURE浸透・採用広報
・採用手法:リファラル+採用イベント
富田氏:この頃からMVV-Cを大切にしており、リファラル採用を重視していました。
▼フェーズ2:上場後の再投資
・従業員規模:300〜550名
・採用チーム:5名〜10名
・キーワード:人事本部発足(285名採用)
・採用手法:リファラル+採用イベント+エージェント+DR
富田氏:積極的に投資していくタイミングで、新卒採用、中途採用、採用候補など採用チームの体制を整え、全社で200名以上の採用を目指していました。とにかく面を広げるために、全社採用をキーワードにリファラルで採用しながら、人材紹介会社のパートナー企業との連携強化やスカウト活動を強化していました。
▼フェーズ3:事業領域の拡大
・従業員規模:600〜1,200名(倍増)
・採用チーム:10名〜30名(3倍増)
・キーワード:People Forward本部設立+Global強化+HRBP発足
・採用手法 :(さらに)エージェント+DR
富田氏:事業領域の拡大と、マネーフォワードとして通年の黒字化を目指した時期です。人事部も「People Forward本部」と名称変更した他、採用チームが3倍に、従業員規模が2倍になるなど大きな変化がありました。
▼フェーズ4:資金調達から再投資
・従業員規模:1,200名〜
・採用チーム:30名〜40名
・キーワード:D&I 取組み、人事オペ改善、スモールチーム(ミッション明確化)
・採用手法:リファラル+採用広報
富田氏:通年の黒字化実現によって315億円の資金調達を実現したころから、再投資を目指して現在に至るまでがフェーズ4です。
People Forward本部としては、弊社が大切にしている「人」や「MVV-C」に対して、それを風化させず、浸透させ、高めていくということに主眼を置いた人事チームを作っています。
全体を通して人事担当者が大切にしてきたもの
富田氏:さまざまな変化がありましたが、まず私達が率先してMVV-Cを体現することを大切にしてきました。
富田氏:人事が体現できなければ、しっかり惹きつけることはできません。MVV-Cが実際どういうものなのかを突き詰めて、どうすれば実現できるのかをすごく考えながら、これまで活動してまいりました。
「お金を前へ。人生をもっと前へ。」がMISSIONの会社ですので「ここで働く社員一人ひとりの人生が前に進まなければいけない」と思っています。私達人事は、それを実現するためのサポートをしていくべきだというところで、名称も「People Forward」に変更し、現在MISSIONの実現を目指しているところです。
今後の採用戦略の展望
富田氏:今後はさらなる事業成長を実現する採用戦略を加速するために、以下にチャレンジしていきます。
富田氏:この中ではリファラル採用を全体の50%にするためのプロジェクトも掲げています。
これだけ組織が急拡大していますので、しっかりと組織のMVV-Cを維持・進化させていくための採用をすべきだと思っております。そのためにリファラルはかなり有効だと思っています。
橋本:かなりチャレンジした数値だなと感じましたが、そのための仕組みづくりは?
富田氏:現状はPDCAを回しながら50%に近付けていこう、という状態です。どちらかと言うと「何で50%にするのか?」というところがすごく大事かなと思っています。
採用活動は会社作りとほぼイコールであり、MISSION&VISIONを実現するために組織を強くしていくことが採用の目的なので、どういうチームで実現していくのかというのを、レイヤーに関わらずメンバー全員で考えた方が絶対強くなると。
メンバーの中には「採用活動を通してMVV-Cを考えるようになりました」っていう人も非常に多くて、そういう体験から色々なメンバーが採用に積極的になってくれているなというのは感じているところです。
タレントプール構築に「Eight Career Design」を導入
橋本:タレントプール構築の部分で弊社のサービス「Eight Career Design」を導入いただいておりますが、ねらいや経緯などを教えていただけますか?
富田氏:以前から転職顕在層だけのアプローチでは難しいことを実感していた中で、潜在層にアプローチできる手段を探していた時に「Eight Career Design」と出会いました。
富田氏:トライさせていただいてすごく良かったなあと思うのが、名刺という限られた情報源の中で、「この人にどうアプローチすれば出会えるのかな」という話を、事業部メンバーを巻き込んで話せたというのが良かったなと。より「全社で採用していくんだ」という意識が高まったと思います。
マネーフォワードの採用戦略に対するQ&A
ここからは視聴者から寄せられた質問への回答と、橋本からの質問をダイジェストでご紹介します。
Q.人事の増員は経営判断?ボトムアップ?
富田氏:経営陣にも判断してもらいましたが、ボトムアップで実現しました。
当時は少数精鋭だったので、フェーズによっては現状の体制では難しい人員計画もありました。その時に経営陣と「今の体制だとなぜできないのか」といったやり取りをしたことで、改めて組織フェーズの変化を捉えたコミュニケーションが十分にできてなかったなと、お互いそのタイミングで気付くことができました。
ただ、私達も事業を成長させることにこだわってやりたかったので、どうすれば実現できそうかをお話しました。
橋本:話を伺っていて「すごい」と思うポイントが2つあって。1つは無謀とも思える人員計画を出されたときに、「できない理由を話す」よりも「どうやったらできるか」という視点で人事のボトムを上げていったこと、そしてもう一つは経営側も聞いてくれる姿勢があることが、素晴らしいなと思いました。
富田氏:マネーフォワードの経営陣は「現場で何が起きているか教えてくれ」とコミュニケーションしてくれるので、すごくありがたい環境だなと思っています。経営陣からも「市場が激変している中で、マネーフォワードがしっかりと生き残り成長していくためにはこういう計画が必要なんだ」と説明してもらいますし、僕たちも考えて取り組んでいると思います。
Q.フェーズ1と2でリファラル採用を強化した経緯は?
富田氏:弊社は創業当時から、代表取締役社長CEOの辻 庸介やメンバーが人を連れてきて仲間を増やしていくことを体現していました。この頃からMVV-Cや一緒に働く「人」という部分を重要視していて、リファラルに注力することを経営陣が語り続けていた、っていうのが非常に大きいと思います。
この会社に入ってびっくりしたのが、「全員で採用するんだ」という感覚があらゆるレイヤーに浸透していることです。創業初期のタイミングから、その土壌作りはやってきていたかなと思います。
橋本:一方で、メンバーが急増する中でMVV-Cが薄まるのでは、という危惧もあるではと思います。
富田氏:それはおっしゃるとおりで、グループ全体で1,000人を超える前から、代表の辻が「MVV-Cがより浸透する組織作りをしていきたい」というのを声高に発信していたタイミングがありました。
People Forward本部の発足も「人事と一緒にMVV-Cを浸透させていきたい」という思いからです。人事は採用のフェーズから、あらゆるところで従業員とタッチポイントを持つポジションです。だからこそ「あらゆるタッチポイントでMVV-Cを感じてもらえる施策をやっていく」というのをコンセプトにした戦略を当時作り、今実行している状況です。ですから、普段から「マネーフォワードらしさって何だっけ?」みたいな会話をすることが多いと思います。
まとめ
MVV-Cを起点に、どうすればできるのかを考えること。また経営陣もしっかり耳を傾けるとともに、MVV-Cの重要性を叫びつつけること。マネーフォワードの採用戦略は、まさに企業が何のためにあるのかを常に考え、実行し続けることを具現化したものなのかもしれません。