2025年に起こる人材不足を前に、企業が大きな課題として抱えているのが「今いる人材の活用」です。これからの企業成長には、個のキャリア自律を促進し組織の中で成長させ、企業の未来とマッチングさせていくタレントマネジメントがカギとなります。
今回は2022年2月24日の「Professional Recruiting Conference Vol.3」の中で行われた、法政大学キャリアデザイン学部の田中 研之輔教授、株式会社ニトリホールディングス理事の永島 寛之様、Sansan株式会社Eight事業部Enterprise Solutions部の小川 泰正のセッションをレポート。個のキャリア自律を促しながら、どのようにタレントマネジメントをしていくのか、紹介いただきました。
登壇者

小川 泰正(おがわ・やすまさ)
Eight事業部 Enterprise Solutions部 部長
2015年入社。執行役員として法人向け暗いと名刺管理サービス「Sansan」のカスタマーサクセス、マーケティング等を牽引。2020年よりEight事業部にて、「Eight Career Design」事業の推進に従事。2021年よりEnterprise Solutions部を新設。

田中 研之輔(たなか・けんのすけ)
法政大学キャリアデザイン学部 教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/明光キャリアアカデミー学長/UC. Berkeley元客員研究員/University of Melbourne元客員研究員/日本学術振興会特別研究員SPD
一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士:社会学。専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を31社歴任。個人投資家。キャリア開発論を専門とし、著書27冊。例に「プロティアン」など。プログラム開発・新規事業開発を得意とする。

永島 寛之(ながしま・ひろゆき)
株式会社ニトリホールディングス 理事/社長室
厚生労働省「多様な働き方」普及・促進事業運営委員
2013年ニトリ入社。店長経験後、人材採用部長、採用教育部長を務め、2019年3月より人事責任者となる。マーケティング経験を生かしテクノロジーを活用した個人の成長を会社オン成長にマッチングする人事教育システム構築に全力投入。2022年より社長室勤務。
※2022年2月24日時点。現在は「株式会社レノバ CHRO」
個のキャリア自律を促進するために必要なのはプロティアン・キャリア
2022年に企業が取り組むべき戦略人事の重要課題

田中氏:2022年は、キャリア自律を促進させるためDX(デジタルトランスフォーメーション)とCX(キャリアトランスフォーメーション)の2つがカギとなります。キャリアをより良いものにしていくために、企業が取り組むべき戦略人事の重要課題には以下の3つが挙げられます。
こうした中で、今年私が取り組みたいのがHRM(※1)からHCM(※2)への転換です。
1970年以降、在籍社員を適材適所に配置するHRMが行われてきていました。しかし、2000年以降、特に2022年になってからは、社員をいかに成長させるか(HCM)に転換してきています。これを成功させるためには、個のキャリア自律が必要です。
個のキャリア自律のためには、社員がファーストキャリア形成期にキャリアが見えず、ミドルになると会社に依存し、ポストオフになるとモチベーションが低下するという課題を解決しなければなりません。解決のためには、いかにセルフマネジメントで伸ばしていくかが大切となります。ここで経営戦略と人事戦略の連携が必要となるのです。
これからのキャリアを成長させる「プロティアン・キャリア」とは
田中氏:これからは、キャリアを形成するのは組織の中ではなく自分の中で積み重ねていくものだと、企業も個人も理解し行動する必要があります。それが、プロティアン・キャリア(※3)です。

田中氏:まずはキャリアを自分自身で考えるよう、企業として推進していくことが第一歩であり、次の未来を創っていくことにつながります。さらにキャリアオーナーシップの中で、企業が選ばれるような関係性の構築が必要になってきます。
また経歴など過去のキャリアの棚卸しだけではなく、そのうえでアイデンティティが定まったらこれからどう働いていきたいかを考えられるような人事制度が求められていきます。そこで出てくるのがキャリア資本です。

田中氏:キャリア資本は越境学習や副業で、どんどん資本ボリュームを増やす必要があります。現状の資産を明確に把握したうえで自己投資していき、中長期で自己投資するとキャリア資産が貯まる、という流れができていきます。
これをワークシートで見える化していくよう、人事制度を改定しようという企業が現れ始めています。人的資本を最大化して日本企業の生産性を向上させるためには、キャリア自律する人をいかに組織の中で増やしていけるか、がポイントなのです。
非連続の成長には個の自律を促すタレントマネジメントが重要
自律型タレントマネジメントを目指すなら本質を見極めよう
永島氏:自律型のタレントマネジメントは、会社と社員の両者で進めていく必要があります。主役は社員で、会社がステージです。そのバランスや割合は企業文化によって変わるため、自社のバランスを見極めていくことが、これからの人事に求められています。
ニトリも一気に変えていくのは大変でした。「なぜ自律の必要があるのか」という本質的なところを考えていかないと、実現はなかなかできません。
タレントマネジメントは「付加価値労働生産性」の観点で
永島氏:自律型のタレントマネジメントを進めるには、エンプロイージャーニーがカギとなります。入社時に社員が描いている将来やりたいこと、抱えている課題の解決と、社内での役割をマッチングさせて、企業がステージとして成り立っていくことが、労働人口の低下という社会課題の解決に、企業が寄与していくために必要だと私は考えています。
管理から成長させる人事へ(パネルディスカッション)
ここからはパネルディスカッションの様子を一部ご紹介します。
▼キャリアは個人のものではなく関係性を示すもの
小川:会社としてタレントマネジメントを促進していく際、個人はそれをどう捉えていけばよいでしょう。
田中氏:日本は今後人材不足の激化が明確です。その中で非連続の成長を求めるには、私たち自身がいかにやれることを増やすかがポイントとなってきます。そのためには「自らキャリアを作っていくための場が組織である」という方向に考え方を180度変えないといけません。
キャリアという言葉自体が個人を対象としたものですが、プロティアン・キャリアでは、個人となにかしらのコト・モノとの関係を表していると考えています。
キャリアとは個人と個人、個人とチーム、個人と組織、個人と社会の関係のこと。「個のキャリア自律を考える」とは、「自分のキャリアとこれからの組織との関係をいかによりよくするかを考えること」なのです。
小川:会社側の視点からはいかがですか。
永島氏:ニトリの例ですと、商品部でバイヤーまで昇進すれば、商品開発の中ではトップクラスの企画ができる人材になれると思っています。ただ、そのためにはフロアマネージャーなどの現場経験が必要です。現場経験があるからこそのキャリアであるということや、今取り組んでいることで得るスキルや経験がキャリアとして積み上げられていることを見えるようにするのが会社の責任だと感じています。
小川:名刺は上書きしていくとキャリア・経歴になっていきます。社会関係資本も含めて見てもらえる可能性を持っている存在なのだと感じているところです。
▼未来を語れば成長につながる
小川:田中さんのお話の中で「管理から成長へ」というお話がありましたが、管理が強くなっている日本の企業の中で、未来志向や成長の考え方へどう転換していけばよいのでしょうか。
田中氏:能力を伸ばす・成長させようとすると、どのくらい伸びるかが数値化できないので、評価が難しくなります。そこをどう評価していくか、成長に振り切って考えられるかがカギです。
小川氏:ニトリでは未来組織の考え方などが進んでいる印象です。
永島氏:会社として成長を考えたときに、人が足りないという大きな問題があって、今いる人が成長していく以外選択肢がなかったので、自然と取り組めたと思っています。
最近では社員を対象に、年に2回「30年後に何をやりたいか」という「30年キャリアアンケート」を取り始めました。半期ごとの目標の中に未来課題を入れて、未来の組織と個人の進んで行きたい方向を一致させられるようにしている取り組みです。試行錯誤しながらさまざまな軸でキャリアを作っていけるようにトライしています。
田中氏:私は人を評価して管理するためではなく、成長させるために人事がいると考えています。教育はコストでなく投資です。
永島氏:教育は、人事が経営と連動して取り組んでいかないと、社員が不幸になるとすごく感じています。責任をもって、経営側ときちんと取り組んでいくことが人事の役割だなと改めて思いました。
▼Eight Career Designのこれから
小川:約50年働くであろう人生100年時代の中で重要なのは、過去の経験だけでなく「これから何をしていきたいのか」だと考えています。今後、個人が自律的にキャリアを歩んでいくために、Eightを通して企業と個人がフェアな関係でマッチングし、お互いに成長していける状態をどう作っていくのか、がEightの課題です。
企業が有望な若手やDX分野の専門家といった即戦力人材を採用したい中では、プロフェッショナルリクルーティング(※)が重要になってくると考えています。プロフェッショナルルクルーティングの中で、カジュアルに企業の話を聞き、企業が人に情報を提供していくという関係性によって、成長が生まれていくのではないでしょうか。
※プロフェッショナルリクルーティング=現職で活躍する優秀な人材、プロフェッショナル人材に不信感を与えずに、個人のライフタイムに伴走する形で他社に先駆けてダイレクトにアプローチを行い採用する手法

小川:Eight Career Designでは、これから「今」の情報を踏まえてスカウトが打てるサービスや、キャリアプロフィールを厚くできるようにしていこうと考えています。その中には、「未来の名刺」も入れ、つながり情報、どういう業界のどういう役職の方とつながっているのかなどを可視化し、Eight Career Designならではのマッチングに向き合っていきたいです。
まとめ
個のキャリア自律を促すタレントマネジメントは、未来をしっかり見ながら考えていくことが非常に重要です。これからの人事は、人的資本を管理するのではなく、成長させ、未来の組織につなげていけるような取り組みを進めていく必要があります。
管理から成長へ、過去から未来へ考え方をシフトし、キャリア資本を描いて個と企業がよりよい関係性を築いていく第一歩としてEight Career Designもご活用ください。
