世界の産業構造がめまぐるしく変化している昨今、既存事業の業界とは違う、新しい業界で事業を立ち上げる企業が増加しています。一方で「コンセプトはいいが事業化が難しい」「新規事業には社内リソースだけでは足りない」などという悩みも多く聞かれるようになりました。
ここで必要となるのが、外部プロフェッショナルの知識や経験といった、貴重なHR(ヒューマンリソース)やナレッジです。
そこで新規事業を立ち上げる際の外部人材の活用について、株式会社ビザスクとSansan株式会社共催によるセミナーを実施しました。
この記事は、以下内容を取り上げたセミナーのダイジェストです。
・どのようなスキルを持った人がフィットするのか
・どんなメリット/デメリットがあるのか
・採用するにあたってどのような手法が有効なのか
登壇者
草野琢也
株式会社ビザスク
事業法人部Partnerチーム チームリーダー
SEを経験した後、㈱パソナへ転職し2013年より新規事業開発に携わり「顧問紹介サービス」を立ち上げ、2019年10月より㈱パソナ顧問ネットワークとして分社。執行役員として営業、マーケティング、事業開発などを担当。2020年8月より株式会社ビザスクに転職し、伴走型の課題解決サービス「ビザスクpartner」、社外取締役/監査役マッチングサービス「ビザスクboard」を立ち上げ、責任者を務める。
西島洋明
Sansan株式会社 Eight事業部
Eight Career部営業マネージャー
大学卒業後、WEB広告代理店に入社しWEBプロモーションの支援を行う。その後、株式会社GYAO、クックパッド株式会社勤務を経て2017年にSansan株式会社に参画。2019年より『Eight Career Design』の最初のセールス担当として事業の立ち上げに従事。IT企業を中心に、これまで1000社以上の採用担当者と対話を行っている。
まず現状の事前共有として、株式会社ビザスクHRグループの村井氏から、セミナー開催の背景などについてご説明いただきました。
新規事業の立ち上げ経験がある人材は希少性が高い
村井氏:私の方から昨今のトレンドなどについてご説明させていただきます。
こちらは「ハイプ・サイクル」というガートナー社の調査資料です。
近年、新技術が次々と生まれては、それが短命でどんどん旧モデルになっていくという流れが起きています。
企業にとってこの流れは、新しい業界や複数の業界で新サービスを開発していく、つまりイノベーションを興すきっかけとなっています。
村井氏:業界をまたいでのサービス開発には、自社だけのノウハウでは不可能なことが多く、そこで注目されるのが高いスキルを持った外部人材です。
しかし新規事業の立ち上げ経験を持つ人材は、そもそも市場には少なく、出会う可能性が難しい希少性の高い存在となっています。
このような状況を背景として、本セミナーでは、新規事業における外部のプロフェッショナル人材・ナレッジの活用と、そのポイント、採用の課題やアプローチ方法などについてご紹介してまいります。
新規事業創出の方向性やフェーズに合わせた外部プロフェッショナル活用戦略
昨今市場が変化している中で、企業では新規事業を開発する必要性が増しています。
そこで、企業が新規事業を立ち上げる際のさまざまな課題や、スポットコンサルなどの外部人材活用で課題解決へ導くための手法について、株式会社ビザスクの草野氏から説明していただきます。
草野氏:新規事業を開発する際には、上記のような行程で事業化するのが一般的ですが、多くの企業が各フェーズにおける課題に直面しています。
新規事業創出の各フェーズでの課題認識が重要
草野氏:初期段階では新規事業開発のプロセスの必要性をしっかりと理解することが大切です。
またどのように事業開発を進めていくかという後工程のイメージを構築して、きちんと初期仮説設定やビジネスモデルの検討をしておく必要があります。
その後の事業検証フェーズになると、POC(実証のための検証)を進めるための社内リソースの不足や、具体的な事業計画をたてることが難しいといった課題を感じている企業が多く存在します。
草野氏:だからこそ新規事業の創出には進みたい方向性やフェーズに合わせた外部プロフェッショナル人材、およびナレッジの活用戦略が必要です。
そこでわれわれが提案しているのが、外部人材をスポットコンサル(1時間インタビュー)などの時間・期間単位で有効活用する方法です。では、新規事業創出においてどうやって人材・ナレッジを活用するのかどのように人材・ナレッジを調達するのかという「HR/Knowledge」の活用についてお話ししていきます。
まず、各フェーズで活用すべき外部人材について説明していきます。
フェーズごとの外部プロフェッショナル活用方法
アイデア創出~初期仮説検証フェーズ
草野氏:初期段階で期待されるのは新規事業創出の経験者ではないでしょうか。その場合パターン1と2があります。
1.近い業界での新規事業創出経験者
2.他業界での新規事業創出経験者
1:業界の共通用語を理解しているため、スピーディに初期フェーズを進めていくことができますが、その人材の経験値に依存しすぎて視野が狭くなってしまうという可能性も考えられます。
2:事業の推進役を期待できる反面、そもそもの自社や業界の説明など初期インプットに工数がかかるといったデメリットも考えられます。
事業検証~事業化フェーズ
草野氏:このフェーズでの外部人材は、どちらも企業や事業のトップを経験した方が対象です。
1.大企業での新規事業経験者
2.ベンチャー企業のCEO/CTOなど
1のケースなら、大企業での社内調整や根回しなどの経験を生かして、経営層へのスムーズな意思疎通が可能になりますし、、2のケースならベンチャー企業のアジャイル型でスピーディな推進が期待できます。
どちらの場合も最大のメリットは、参画してもらう人材のナレッジを最大限に有効活用できるという点です。
新規事業の方向性と外部人材の活用戦略
草野氏:自社でやりたい新規事業の方向性によって、求める外部人材も変わってきますので、担当者や経営層はしっかりと方向性を設定する必要があります。
《求める人材と行きたい方向性との関係》
◎異業界R&D経験者
➡ 持っている技術をほかの業界で活用したいとき(素材メーカーやR&D=研究開発関係機関など)
◎連続起業家(複数の事業を成功させてきた経験を持つ存在)
➡ これまでとまったく違うドメイン(持続的な成長を可能とする事業活動領域)で新規事業をおこしたいとき
◎同業界マーケティング経験者
➡ これまでとは違う“領域”でのソリューションを創出したいとき
フェーズや行きたい方角を見極めたうえで人材の活用戦略を考慮していく、ということが非常に重要だと言えます。
外部人材とのマッチングプロセス
草野氏:新規プロジェクトの骨子を作成し、スケジュールや体制などを整えた後に、必ず行うべきことは『不足している知識・経験について、どれくらい不足しているかを可視化し、その調達をプロジェクトの中に落とし込むこと』です。
そのうえで『いつどのように調達するか』という調達要件まで設計すると、非常にスムーズにプロジェクトを進めることができます。
草野氏:外部人材とのマッチングにおいては、経験業界・有する知識や視覚といったキーワード・マッチング、次に「どのフェーズが得意なのか」「どのフェーズの経験があるのか」というフェーズ・マッチング、最後に人柄や価値観といったソフト・マッチングのプロセスを踏みます。特にフェーズ・マッチングは大事なポイントでここで会社が求めるところと齟齬があるとマッチングはうまくいきません。
候補者がいつの時代に、どんな会社でどんな成長期を体験してきた方かという点をしっかりと理解したうえでマッチングすることが大切です。
外部プロフェッショナルの種類とメリット/デメリット
草野氏:新規事業において外部人材を活用する場合は、どのような方にどういう形で参加してもらうか、またそれぞれのメリットとデメリットを把握しておくことが上手な人材活用につながります。
《外部人材の種類》
1. フリーランスや個人事業主
2. 企業を退職したOBやOG
3. 副業社員
4. 起業や経営の経験者
草野氏:プロジェクトの進め方や自社のカルチャーに合わせて、上記の表の○×を入れ変えて、メリットとデメリットを組み合わせて選択することが大事になってきます。
このように新規事業の中で外部の人材やナレッジを活用をしようとする時には、新規事業開発における自社のフェーズをきちんと分解すると、さまざまなポイントや見極め方があることが分かるのです。
専門人材を獲得するための、今後の採用手法とは
続いて弊社の西島から、実際に外部人材を採用する際の課題と今後の採用手法についてお話させていただきます。
外部人材はスポットコンサルだけではなく、採用においても常に重要な存在ですが、そもそも優秀な専門人材が市場の中にほとんど見られないという大きな課題があります。
その課題を乗り越えるためには『攻め』の採用がポイントとなります。
新規事業を担う人材の確保はかなり難しい
西島:企業が新規事業を立ち上げるケースが増えてきたのは、実はここ数年です。そのため実際に経験したことのある人の数自体がまだ少なく、かなり貴重な人材だといえます。そして、貴重な人材こそ転職市場には出てこないというのが現状です。
貴重人材であるからこそ、社内の重要ポストにつき新規事業を担当しているケースや、転職市場に出てきてもリファラルで動く可能性が高い傾向にあります。
市場から人材をとっていくという従来の採用手法では今後かなり難しくなり、新たな市場から探していく必要が出てきます。
企業から直接アプローチしていく必要がある
西島:採用の手法にはいくつかありますが、専門人材を求めている時にどの手法をとるのか、重要なのはその使い分けです。
専門人材の採用となると、高いスキルを求められるため対象者は少なく限られた応募数から適材を見つけなくてはなりません。そのためダイレクトでアプローチをして直接関係構築をしながら人材を確保していく方法が有効です。
従来の転職市場にはいない存在にリーチする
西島:近年、転職市場はレッドオーシャンといわれています。
約6700万人の労働人口の中で、1年間に転職などで動く人が5%程度の350万人ほどとされており、この中から新規事業に明るい人材を探し出してダイレクトリクルーティングで取り合っていくのは、間もなく限界が来ると予想されます。
そこで重要になるのが、転職検討層や、現職で活躍中の転職市場に現れない層にまでアプローチしていくことです。そうしなければ、優秀人材はなかなか獲得することができなくなります。
『攻め』の採用に切り替えていく
では、転職市場に現れていない優秀人材に、どのようにしてリーチしていくのでしょうか。
西島:貴重な専門人材にリーチするためには、募集があった候補者から選定する従来の「待ち」の採用から、自社でアプローチする「攻め」の採用に切り替えていく必要があります。
企業が候補者を選ぶのではなく候補者が企業を選ぶ時代になり、どれだけ自社を選んでもらえるかという観点から「惹きつけ」と「見極め」が重要です。
「攻め」の採用で重要なポイントは“惹きつけ”と“見極め”
転職市場にはまだ現れていない候補者に対してアプローチする場合、転職する魅力を伝えなくてはなりません。
そこで重要になってくるのが『惹きつけ』と『見極め』だといいます。
《もっとも重要なポイント》
・選考に乗せる惹きつけ
・選考過程の見極めと惹きつけ
・入社意欲を高める惹きつけ
西島:『惹きつけ』のひとつの手法として“カジュアル面談”があります。
カジュアル面談とは応募者が企業のことを知るための機会で、選考とは切り離したものです。
しかし、カジュアル面談の場でいきなり志望動機を質問してしまい、惹きつけに失敗したという例が頻発していますので注意が必要です。カジュアル面談は、見極めと惹きつけを会社として体系化して取り組んでいくことが大事です。
そのため、企業ごとにカジュアル面談の目的を明確に設定しておくといいでしょう。
カジュアル面談では“志望動機を聞くのではなく、志望動機を作る材料を渡す”ことが弊社のミッションとなっています。
カジュアル面談での目的を設定する
西島:候補者に対しては、会社全体としてのミッションを理解し、興味を持ってもらえる状態を作ります。また弊社側も候補者と一緒に働くイメージが持てるか判断できる状態を作れるように、時間配分も含め、かなり厳密な設定をしてカジュアル面談を行っています。
またアジェンダに加えてこの設定を社内で回すことで、誰がアサインされても対応できるような社内教育も大事です。
候補者を惹きつける「採用の4P」
西島:自社のユニークな魅力や価値(強み)をはっきりと言語化し、採用担当者が候補者に明確に伝えることができると、より強い惹きつけが実現します。
言語化する際のポイントが「採用の4P」といわれるフレームワークです。
「出会いからイノベーションを生み出す」という弊社のミッションに対して、どれだけ魅力を感じてもらえるかということを、「採用の4P」に落とし込んで言語化することで、惹きつけの際にうまく候補者に伝えられるようにしています。
新規事業担当者を採用するためのポイントまとめ
西島:新規事業担当者を採用するためには、まず第一に『従来の転職市場“以外”からアプローチする必要がある』ことが大切です。
《採用を実現するための3つのポイント》
1.欲しい候補者の要件定義をする
➡ 今のフェーズに対してどういう人が必要なのかをきちっと定義する
2.自社の強みを把握してきちんと伝える
3.見極めと惹きつけを社内で体系化する
絶対数が少ない中で、顕在していない層にアプローチすることが成功の鍵だと言えます。
まとめ
新規事業の創出において、スポットコンサルなどの外部人材活用で重要なポイントは、企業のフェーズや事業の方向性にあわせたマッチングです。
また、優秀な人材を採用し新たな事業を展開する際には、企業自らが候補者を探し出していく「攻め」の採用が、今後は必須です。
さまざまな状況にフィットする貴重な外部プロフェッショナルを、しっかりと参画まで結びつけるためには「惹きつけ」や「見極め」による採用が重要です。
外部の専門的な知識やノウハウ、技術をうまく取り入れて新規事業を創出することが、今後の企業には非常に重要なミッションになることは間違いありません。
そこでスポットコンサル・採用、それぞれのマッチングポイントを整理して外部人材をうまく活用し新規事業を成功へと導いていくことができるよう、経営層や担当者の方には意識づけをしていくことが大切です。